満たされない日常の中で揺れ動く女性の感情と人間関係を描いた作品である。
21歳のカナは、恋人と同棲しながら美容関係の仕事を続けているが、将来にも人間関係にも実感を持てず、鬱屈した日々を送っていた。衝動的な言動で周囲を振り回しながらも、自分の居場所を見つけられない彼女は、恋愛や仕事を通して少しずつ自分自身と向き合っていく。
カナを河合優実が演じる。共演は金子大地、寛一郎、新谷ゆづみほか。
映画『ナミビアの砂漠』レビュー。評価が分かれる心理ドラマ。
『ナミビアの砂漠』は、若さゆえの不安定さと、どうにもならない閉塞感をむき出しの温度で描いた青春ドラマである。主演を務めるのは、繊細さと危うさを同時に漂わせる河合優実。恋人役には金子大地、さらに寛一郎らが出演し、感情をうまく言葉にできない若者たちの空気をリアルに体現している。
物語は劇的な事件が起こるわけではない。しかし、誰かと一緒にいても満たされず、未来を考えるほど息苦しくなる感覚が、静かに、しかし執拗に積み重なっていく。観ていて「痛い」と感じる瞬間も多いが、それこそが本作の核心なのかもしれない。
“自分が何者なのか分からないまま大人になっていく怖さ”を真正面から映し出した本作は、刺さる人には深く刺さる一本である。
『ナミビアの砂漠』は解釈の難しい詩的作品。人生はイロイロ。感じ方は人それぞれ。
本作は非常に、何というか、良く言えば自由な、悪く言えば視聴者任せな作品である。
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いじわるで、嘘つきで、暴力的。そんな彼女に誰もが夢中になる!世の中も、人生も全部つまらない。やり場のない感情を抱いたまま毎日を生きている、21歳のカナ。優しいけど退屈なホンダから自信家で刺激的なハヤシに乗り換えて、新しい生活を始めてみたが、次第にカナは自分自身に追い詰められていく。もがき、ぶつかり、彼女は自分の居場所を見つけることができるのだろうか・・・?
引用:Amazon.co.jp: ナミビアの砂漠|Prime Video
『ナミビアの砂漠』レビュー|評価が割れる理由は"委ねる"構造にある
映画『ナミビアの砂漠』は、視聴者によって評価が大きく分かれる作品だろう。
実際、Amazonプライムのレビューは面白いくらいに票が割れている。

私は好。"好き"ではなく"好"。つまり、そういう作品だ。
1人の女性の人生のある一断面を切り取り、その心境の変化をただ眺める映画。
心境の変化から生まれる行動、なぜそんな行動をとったのか、どうしてそんな気持ちになったのか——その解釈を、すべて視聴者に委ねる構造になっている。それが賛否を生む理由だと思う。
賛否両論は必然|『ナミビアの砂漠』河合優実が演じるカナの心理を考察する
本作『ナミビアの砂漠』は、ゆったりとした流れでストーリーがたゆたう。
"ダルさ"を表現したかったのかもしれないが、やや冗長に感じられる部分もある。しかし、そうした間を余韻と捉えることもできる。前述したように、感じ方は人それぞれだ。
"思ったように"、それで良い。
1人の若い女性・カナ(河合優実)の等身大の姿を、ただ淡々と綴る作品。物語を一筋の線で見られなければタルく感じられ、冗長で退屈に映り、ラストまで行き着くのはしんどいかもしれない。しかし人によっては心に共感を呼び、自身と重ねて没入してしまうかもしれない。
実際、Filmarksのスコアは3.6点台と評価が真っ二つに割れており、「2時間ずっとこいつは何なんだという気持ちが続いた」という声がある一方、「自分だけの憂鬱を切実に代弁してくれた」と絶賛する層も少なくない。第77回カンヌ国際映画祭 監督週間で国際映画批評家連盟賞を受賞した作品が、これほど国内で賛否を呼ぶという事実そのものが、本作の本質を物語っている気がする。
そのカナの、感情を読み取るのが非常に難しいというのも本作の特徴だ。はっきり言って、どうとでも取れるのだ。
「空っぽな女」と評されることも多いカナだが、山中瑶子監督自身はそれを否定している。「カナには、体力も情熱も思考もある」というのが監督の言葉だ。ではなぜあれほど掴みどころがないのか。それは彼女がふたつの事象のあいだを常に揺れながら生きているからではないか、と私は読んだ。目の前の人間との会話と、画面外の別の声。今の恋人と、元の恋人。東京とナミビアの砂漠。カナは何かひとつに落ち着くことなく、その境界線の上を綱渡りし続ける。
つまりこの映画は、彼女の行動から浮かび上がる心理を、自分なりに解釈し、自分なりに味わう作品である。そう私は受け取った。
作中でも「感じていることを、感じたままに思うことが必要なんじゃないか」というセリフがあるように、それがこの映画の本質だと思う。
そう。だからこそ賛否両論に帰着するのだ。カナの心理に「正解」がない以上、観客の数だけ解釈が生まれ、評価が割れるのは必然と言えるだろう。
河合優実の演技が『ナミビアの砂漠』を成立させている
さて、内容にはこれ以上触れないでおく。レビューであるのに、だ。何度も申し上げるが、私の評価は"好"である。
ここで俳優に執着すると、なかなかどうして主演の河合優実は演技派だと感じた。彼女を知ったのは、実はここ最近のこと。映画『悪い夏』を視聴したときである。
けだるさを表現している演技の中にも可愛らしさを漂わせつつ、ごく自然に演じていた。静かなシーンでは落ち着きを、荒々しいシーンではダイナミズムを。演技面は特に注目すべきポイントである。
山中瑶子監督は、河合優実の演技について「脚本に書かれたことだけで多くを受け取ってくれているという信頼があったから、演出面でほとんど苦労しなかった」と語っている。さらにカンヌの場では「河合優実さんの圧倒的な身体の煌めきよ!毎カットご褒美のように撮っていました」とまで言い切っている。褒め方がもう、普通じゃない。
実際、本作での演技は第79回毎日映画コンクール主演俳優賞を受賞している。授賞式で山中監督は代理でトロフィーを受け取りながら、「光が降り注ぎながらも影を見つめることができる、稀有で唯一無二の役者」と河合優実を称えた。監督自身がそこまで言うのだから、まぁ間違いないだろう。
(まぁそれ言っちゃえば、カウンセラー役の人は本物なんじゃないか?って思うくらいにカウンセラーしてたんだけど)
『ナミビアの砂漠』はこんな人におすすめ|鑑賞前に確認したいポイント
本作はストーリー性よりも、空気感や感情の揺れに重きを置いた作品である。
終着駅や明確なメッセージはない。しかしながら、人に何かを感じさせるものだ。別に嫌いでも良い。
私にとっては「好き」ではなく「好」だった。
- 登場人物の心理を想像しながら観るのが好きな人
- 河合優実の演技に注目している人
- 説明的なセリフが少ない邦画を好む人
逆に言えば、明確な結末やカタルシスを求める人には向かないかもしれない。それもまた、この映画の正直なところだと思う。
そういう、映画だった。
『ナミビアの砂漠』、観て損はない。たぶん。
結局のところ、この映画を誰かに勧めるのは難しい。「面白かった?」と聞かれたら、正直に「好だった」と答えるしかない。
ただ、観た後にぼんやりと余韻が残る。それは不快な感覚ではなく、何かを考えさせられる類のものだ。答えは出ないけれど、頭の隅にカナがいる。そういう映画は、わりと少ない。
万人受けはしない。断言できる。でも、刺さる人には深く刺さる作品だと思う。
気になっているなら、観てみれば良い。合わなければそれまで。合えば、しばらく引きずることになる。
(Amazonプライムで観られるので、ハードルは低い)
映画『ナミビアの砂漠(2024年)』の作品情報まとめ(監督・キャスト・配信情報など)
- 監督:山中瑶子
- 出演:河合優実、金子大地、寛一郎
- 公開年:2024年
- 上映時間:137分
- ジャンル:青春、ヒューマンドラマ
