様々な角度からの”愛”を描いたハートフルドラマ
―映画『花まんま』―
朱川湊人著、第133回直木賞受賞作『花まんま』の映画化作品である。
俊樹(鈴木亮平)の妹・フミ子(有村架純)への想い、フミ子の中に残る繁田喜代美(南琴奈)の家族の記憶、そして繁田家が抱くフミ子への想いと喜代美への愛。本作は、これら複雑に絡み合う感情を描いている。
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私は原作未読勢だが、率直に言えば、直木賞受賞作の映画化としては……感は否めなかった。直木賞の冠が大きかっただけに、期待値も高かったが、結果としては、私の中では“観られる作品”に留まったと言える。
映画『花まんま』感想・評価|直木賞受賞作の映画化はどう映ったか
映画『花まんま』は、やや複雑な構成を持つ作品である。ここでいう「複雑」とは、ストーリーが難解というわけではなく、設定が入り組んでいるという意味だ。
ネタバレは控えつつあらすじの部分で触れるが、視聴中に作品のバックグラウンドを整理するのには多少なり苦労した(私の理解力不足という可能性もあるが)。しかし、その点をクリアすれば物語自体は単純明快で入っていきやすく、人によっては感情移入できさえすれば感動で涙をこぼすこともできる。
物語で大きく触れられていたのは、両親が亡くなってから妹のフミ子を育ててきたのは兄の俊樹だという点だ。主役が俊樹なのだから大抵のシーンは彼の主観よりで描かれる。しかし、ストーリー中盤以降では視点は広くなり、俯瞰ぎみに展開されていく。
監督は『こんな夜更けにバナナかよ 愛しき実話』『そして、バトンは渡された』『九十歳。何がめでたい』などを手がけた前田哲。
私は全て視聴済だが、ここに本作を加えるとすると、私の中での順位は次のようになる。
1位『そして、バトンは渡された』
2位『こんな夜更けにバナナかよ 愛しき実話』
3位『花まんま』
こんな評価である。
のちに語るが、本作は濃すぎるキャラクターの存在や、ファンタジー要素のシーンが逆に作品の足を引っ張っているように感じられた。
とはいえ私の中では『九十歳。何がめでたい』よりは評価は高い。レビューはこちら:
ともかくとして、やはり原作が直木賞受賞作品だということがかなりひっかかるというか、直木賞の冠を背負った映画化作品としては、もう一歩の工夫や深みが欲しかった、というのが私の正直な感想である。
映画『花まんま』あらすじ(ネタバレなし)と兄妹の絆
俊樹(鈴木亮平)と妹のフミ子(有村架純)は、幼いころに両親を亡くし、二人で支え合って生きてきた兄妹である。やがてフミ子は結婚を控え、人生の新しい一歩を踏み出そうとしている。しかし、フミ子の心の奥にはもう一人の女性の“記憶”が存在していた──。
……。困ったことに、あらすじで触れると述べたがこれ以上は書けない。書くとネタバレになってしまう。私はできるだけネタバレはしないというスタンスだから(昔の作品や、ネタバレしないとレビューにならない場合はもう書いちゃうけど)、したがって、ここではテーマ性と印象を中心に述べる。
とかく本作『花まんま』は、全体を通して俊樹の「オレが妹のフミ子を一人で育ててきたんだ」という主張が強く、それを俊樹視点で前面に押し出してくる。もちろん本作は兄妹の愛というテーマ性もあり、特に兄から妹に対する気持ちが強く出ていて、核にもなっている。俊樹の視点を通じて、視聴者にも強く訴えかけてくる構成だ。それを逆手にとって、ラストでは――という展開なのだが。
私自身にも妹がいるのだけれど、両親ともに顕在かつ健在で、「妹を守る」「妹を支える」みたいな強い感情を抱いたことはない。いや、両親がいるかどうかは関係ないかもしれないが。むしろ幼いころは仲が悪く、喧嘩ばかりしてきた。現在は妹も家庭を持ち、その娘──私にとっての姪──は私にとっても可愛くてしかたないが、妹との仲は良くも悪くもなく、兄妹の関係そのものは淡白なものだ。
このような私の実体験と比較すると、『花まんま』が描く兄妹愛の濃さは、どこかフィクション的で、直木賞受賞作としての説得力に欠ける部分もあったと感じた。
もっとも、家族の形は人それぞれである。だからこそ、本作における“兄妹愛”に強く共感する人もいれば、私のように一定の距離を感じる人もいるのだろう。いずれにせよ、兄妹という普遍的なテーマを描いた本作は良くも悪くも、私がそうだったように、観る者に「自分自身の家族」を思い起こさせる力は持っている。
キャスト評価|有村架純と鈴木亮平の兄妹役に注目
妹・フミ子を演じた有村架純は、やはり圧倒的な存在感を放っていた。おなじ”花”つながりで『花束みたいな恋をした』(もちろん視聴済)の頃と比べるとフレッシュさはやや薄れ、大人の女性としての成熟した雰囲気が強くなっている。母親役も十分に務まるような落ち着き加減が出てきており、それは女優としての幅が広がった証拠だろう。まぁ当たり前なんだけど、時の流れを感じさせる変化ではあるが、本作ではむしろその“成熟”が作品に深みを与えていた。
また、本作の舞台が大阪ということもあり、兵庫県出身の有村架純にとって関西弁はごく自然で違和感がなかった(と思う多分。私は関西出身ではないから)。方言が役から浮くこともなく、視聴者を物語の世界に引き込む力になっていたと感じる。
兄・俊樹役の鈴木亮平もまた兵庫県出身であるため、二人の掛け合いは本当の兄妹のように自然でリアリティがあった。鈴木亮平は『孤狼の血』『俺物語!!』『TOKYO MER』など幅広い役柄で知られるが、本作では“妹を育ててきた兄”としての優しさと強さを、──また弱さを──繊細に表現していた。時に厳重な、時に温かく接する姿は、単に映画の中だけではない現実でもありえそうな兄妹関係を思わせる説得力を持っていた。
有村架純と鈴木亮平──関西出身の二人が兄妹を演じたことで、映画『花まんま』のドラマ性は格段に増していたといえる。キャスティングが大きな強みとなり、視聴者に兄妹という設定をより身近に感じさせてくれたのではないだろうか。
残念ポイント|ファンタジー演出とキャラクター設定への違和感
全体的には悪くない雰囲気を持つ本作だが、観賞後に「惜しい」と感じてしまう要素もあった。本作が直木賞受賞作の映画化であることを考えると、なおさら引っかかってしまう部分である。ここでは、個人的に気になった“足を引っ張った要素”を紹介したい。
ファンタジーの映像演出がチープ
フミ子の中には別の女性の記憶が宿っている、というファンタジー要素のある本作品。
要素だけでなく、映像演出としてもファンタジー要素を取り入れていたが、そのファンタジーのシーンが安っぽくて良くなかった。どうして無理に取り入れたのか問いただしたい。なくても良かったし、べつの表現方法にしても良かったように思う。決してファンタジー映画ではなく、あくまで人間ドラマの中に“非日常の要素”がある作品なのだから。
物語全体の雰囲気が良かっただけに、やるんだったらもっとそこに寄せて欲しかった。
フィアンセ・中澤太郎のキャラクター造形に疑問
さらに気になったのが、フミ子の結婚相手の中澤太郎がいかにもなキャラクターで、どうにも現実味がなかった。
髪型は「ぼさぼさ」というより“ぼざぼざ”と表現したくなるほど不自然で、カツラの上にカツラを被ってるようなビジュアルに縦にも横にも広いメガネ。どうしてこういうキャラビジュにしたんだという印象。
しかもカラスと話せるという設定で、作中でも本当にカラスと話してた。伝書バト程度でしょ?とかそんなもんじゃない。カラスに道案内してもらっていた。ファンタスティックビーストやってるんじゃねぇっての。
いくらファンタジー要素がある映画だったとしても、ほどがある。ファンタジーなのは「他人の記憶が宿っている」という”要素”だけで、重ねて言うが決してファンタジー映画ではない。そこにさらに奇抜なキャラクターを乗せるのは、やり過ぎだったと感じる。
思わず「なんでやねん」と突っ込んだくらいだ。舞台が大阪なだけに。原作に人物像がこのように書いてあったんだろうか?コメディ要素として意図的に強調されたのかもしれないが、あまりにも過剰で作品全体のバランスを崩していた印象だ。わざとにしてもやり過ぎだ。謎で仕方がない。
そして、中澤太郎を演じた俳優に罪はないが、公開時点で実年齢25歳である。ストーリー上は助教授という設定で、さすがに配役が若すぎる。とても助教授には見えない。まだ博士終了してない歳じゃん。ここまでボロカスに書いちゃうと本人に悪いので(別に本人が悪いわけではないが)俳優は伏せさせていただく。もうちょっと歳を重ねて、いい頃合いになった人物を使うべきであったと思う。
映画『花まんま』は決して駄作ではなく、感動的な部分も多い、少なからず良質な作品だ。しかし、ファンタジー演出のチープさやキャラクター造形の過剰さが、作品の評価を下げる要因になってしまったことは否めない。良い素材が揃っていただけに、この点は非常に惜しいと感じた。
こんな人にオススメ!
映画『花まんま』は、兄妹や家族の在り方をテーマにした、人間ドラマが好きな人に向いている作品である。
- 血のつながりや育ててきた年月の重みをじっくり感じたい人
- 家族の関係性を自分自身の経験と重ね合わせながら観たい人
- 有村架純や鈴木亮平といった実力派俳優の芝居を堪能したい人
ファンタジー世界やキャラクター造形に多少の違和感はあるものの、最終的には“家族とは何か”という普遍的なテーマを考えさせてくれる作品となっている。
まとめ
映画『花まんま』は、直木賞受賞作の映画化としての私の期待値には及ばなかったものの、兄妹愛や家族の記憶を軸にした感動的な物語であることは間違いない。演出やキャラクター設定に惜しさは残るが、決して駄作ではなく、観る人によっては心に深く残るドラマとなるだろう。
鑑賞後には、自分自身の家族や身近な人との関係を改めて考えさせられる。そうした意味で、本作は“観られる作品”以上の余韻を残す映画であった。
映画『花まんま(2025年)』の作品情報まとめ(監督・キャスト・配信情報など)
- 監督:前田哲
- 出演:鈴木亮平、有村架純、鈴鹿央士、ファーストサマーウイカ、、安藤玉恵、オール阪神、オール巨人、板橋駿谷、田村塁希、小野美音、南琴奈、馬場園梓、六角精児、キムラ緑子、酒向芳
- 公開年:2025年
- ジャンル:ファンタジー、ドラマ