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映画『殺人鬼から逃げる夜(2021年)』感想・レビュー|聴覚障害を恐怖に変えた韓国スリラーの緊張感

リアリティは薄いが、張り詰めた緊張が途切れない韓国サスペンス映画

― 『殺人鬼からげる』レビュー ―

とにかく逃げる!逃げる!逃げ切れ!『殺人鬼から逃げる夜』は、スリラー映画らしいスピード感と手に汗握る展開が魅力の作品である。

物語の主人公は、聴覚障害を持つ女性ギョンミ(チン・ギジュ)

音に制約を課すことで、スリルを増幅。襲い来る、冷酷非道なリッパー(ウィ・ハジュン)の足音も、息づかいも、服の擦れる音すら彼女には聞こえない。無音の世界で、彼女に忍び寄る狂気の魔の手。頼れるのは、視覚のみ。それだけを頼りに、ギョンミは走り逃げ続ける。

緊張感あふれる逃走劇。リアリティよりもスリルとテンポを重視した、異色のサスペンス・スリラー!

 

※このレビューは多少ネタバレを含みます。

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『殺人鬼から逃げる夜』あらすじ

ソウルの夜。耳の不自由な女性ギョンミは、仕事を終えて母のもとへ帰る途中、思いがけない人物と遭遇する。人当たりの良さそうな外見の裏に、得体の知れない影を隠し持つその男との出会いが、彼女を極限の一夜へと引き込んでいく。
音が届かない世界に生きるギョンミは、迫りくる危機を察知することさえ難しい。それでも、街の明かりや人の動きに頼りながら必死に逃れようとする。夜の都会は一瞬にして迷路と化し、緊張感に満ちた攻防が繰り広げられる。
やがてギョンミは、自身の弱点を逆手に取り、生き残るための道を切り開こうとする。無音の中で続く逃走劇は、観る者を最後まで息をのませる。

『殺人鬼から逃げる夜』のストーリー見どころ

映画『殺人鬼から逃げる夜』のシナリオは非常にシンプルで、ただ逃げるだけのストーリー構成。ところどころ釈然としないシーンもあるが、静寂というよりは無音の緊張感と、執拗な追走と逃走、それら一コマ一コマの焦燥感は私に休む暇を与えなかった。

主人公ギョンミ(チン・ギジュ)は完全に聴覚がない。彼女の視点の無音世界と、ギョンミの精神的な戦慄を表現したサスペンス的BGMが交互に現れ、その恐怖の波は2sinカーブの急降下ジェットコースターのように視聴者を揺さぶる!

声が届かない、音が聞こえないことの恐怖ともどかしさは、他のスリラー映画ではなかなか味わえない要素である。

また、犯人(ウィ・ハジュン)の狡猾さも本作の見どころの一つ。対照的に、まぁこうい映画にはありがちな、警察の無能っぷりが強調され、緊迫した状況に拍車をかける。

クライマックスは衝撃展開!まさかまさかの結末に、私は舌を巻いた。それを予想できた者はいないだろう。

韓国スリラー映画らしい、緊張感が詰まった一作である。

 

聴覚障害とスリラー演出

障がいを描いた映画作品は山ほどあれど、聴覚障害を恐怖演出に直結させたサスペンス・スリラーは稀少だろう。『殺人鬼から逃げる夜』は、その障害を恐怖の装置として組み込み、ディープな緊張感を生み出している。大抵の作品は、感動的なヒューマンドラマへと収束していくものだ。

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無音の世界が生むスリル

ギョンミ視点では、全く音がない。BGMやSEまでもだ。「完全な無音の世界」が描かれる。その音がないというだけで、緊迫感がある。

犯人が忍び寄る時、つまりギョンミが犯人に気付いていない時は音のない世界で空気を張り詰めさせ、犯人が襲いかかる瞬間に俯瞰視点となって恐怖を煽るBGMが流れる。この「音のない世界」と「音のある世界」の対比が、他の韓国スリラー映画にはないスリリングさを作り出している。

また、健常者である犯人は足音や物音を頼りに獲物を追えるが、聴覚がないギョンミにはそれができない。かなりのハンデだ。

この一方的な不利がスリルを高め、互いに姿を見失った時の「音のある犯人」と「音のないギョンミ」のコントラストは、迫る恐怖をさらに急(せ)き立てる。

声が届かない恐怖

ギョンミは警察や行き交う人々に助けを求めるが、彼女は先天的に耳が聞こえないため(上手に話せないのでたぶんね)、声を発するのが得意ではなく、うまく意思疎通ができない。スマホやジェスチャーを使って伝えようとするが、相手はなかなか要領を得てくれず、それがまたもどかしく、その間にも犯人は迫ってくる。この「声が届かない恐怖」は、視聴者に無力感すら覚えさせる。

少し脱線するが、「耳が聞こえない」「目が見えない」ではなくて「耳で聞こえない」「目で見えない」が日本として正しいのではないか?ふと私はそう思った。

AIによればこうらしい。

「耳が聞こえない」「目が見えない」が正しい。 理由は、「〜で」は手段(耳で聞く、目で見る)に使い、 「〜が」は感覚の状態(耳が聞こえる、目が見える)に使うからである。

う~ん、わかったようなわからんような。

疾走感あふれる逃走劇と衝撃のラスト

さらに特筆すべきは、その徹底した逃走劇の疾走感である。

追われるギョンミと追う犯人。走っては隠れ、見つかっては再び走る。その繰り返しに飽きがなく、常に緊迫したサスペンスが続く。とにかく走り回るシーンが多く、日本のバラエティ番組「逃走中」を凌駕する迫力といえるだろう。

そしてラスト、クライマックス。かなり意外な幕引きだった。想像だにしていなかった。このラストシーンを考えた人は、なかなかの食わせものである。本当に予想できないから、ぜひ本作を視聴してみて欲しい。

この結末を見るためだけでも、『殺人鬼から逃げる夜』を視聴する価値があると私は思う。

 

リアリティの欠如と気になる矛盾点

聴覚障害を恐怖のメソッドたらしめた本作『殺人鬼から逃げる夜』だが、作品を成立させるために妥協したであろう点、また視聴者側から見ても少々リアリティがかすれるポイントを挙げる。以下に代表的な不自然さを挙げてみたい。

  • 人が全くいない街並み
    ― 夜で町が再開発地区の裏通りとはいえ、さすがに人がいなさすぎる。車の1台も通らないのは不自然だ。逃走劇のほとんどは町中。しかも大都市ソウルだ。不自然すぎる。
  • 警察に通報しない不自然さ
    ― 発話できないからか、警察に通報しない。とはいっても「あー」とか「うー」とか声は出すことのできるギョンミ。電話口の相手も何らかを察してくれるだろう。また、ゆっくり一語一語なら、通じる場面もある(実際物語後半ではゆっくり話す)。また、近くに事情を知った健常者がいても警察に連絡しない。
  • 警察の杜撰(ずさん)な対応
    ― ギョンミは二度襲われるのだが、一度目は犯人から逃げおうせて交番へ駆け込む。パトカーに乗せられて自宅に送ってはもらえるのだが、そもそも未遂とはいえあの世に行きかけた被害者なのに、そのまま帰すだろうか?周辺警備もしてくれない。証拠隠滅に、犯人がギョンミを狙いに来るのはわかるはずである。酷い対応だ。被害者を危険にさらしたままにする警察の行動は、リアリティを損なっている。
  • 母親の行動の不自然さ
    ― 自宅に帰されたあと、母親の務める会社の社長が商品を取りに来る。母親はギョンミを残して商品を納めに出かけるのだが、外出は控えたほうが良くない?さっき襲われたばかりなのに。せめてギョンミも連れて二人で出ようよ。
  • 繁華街でも助けを得られない不条理
    ― 物語終盤、いよいよギョンミと犯人の舞台は繁華街へと移る。人通りも多い。ギョンミは助けを求めるが、うまく意思疎通ができず人々からないがしろにされる。「あぁ、都会ってやっぱり繋がりが薄いんだな」という表現にもとれるが、繁華街なんだからもうここまで来たなら警察行こうよ。交番の一つでもあるでしょ。現実的には不自然である。

以上のように、本作は不自然な点が少なくない。しかし、恐怖シーンの一つ一つは秀逸なので、上記の点は目をつぶるべきか。全体としては観られる仕上がり。キッチリと細部まで緻密であれば、間違いなく傑作になり得ただろう。

 

『殺人鬼から逃げる夜』に描かれる選択の重みとテーマ性

韓国スリラー映画『殺人鬼から逃げる夜』で印象的だったのは、主人公ギョンミではなく、別の被害者の兄が下す決断のシーンである。ギョンミを助けようと犯人との間に割って入ったその兄だが、「ギョンミを助けるか、それとも妹を助けるか」という選択を迫られるシーンである。どちらを選んでも後悔や罪悪感が生まれる可能性があり、その時の決断がギョンミか妹かの人生を大きく変えてしまう。実はシチュエーション的には私は違和感を覚えたシーンなのだが、しかし選択という点においては単なるフィクションにとどまらない。

私たち人間は、日々さまざまな選択をして生きている。夕食は何にするか、どの映画を観るかといったような小さな選択は、一日に20,000回以上しているらしい。さらには、進学や就職、結婚といった人生を変える大きな選択もある。これらは日常的ではあるが、その積み重ねが私たちの人生を形作っている。

さらには、映画のように「命に関わる選択」に直面することもありえるだろう。溺れている人を自ら助けに行くか、火事の中に飛び込んで救助するかという状況は、まぁ稀ではあるが対岸の火事ではない。そうした時に人は直感的に、あるいは価値観に基づいて、もしくは考えずとも体が勝手に選択を下すことになる。

『殺人鬼から逃げる夜』の選択のシーンは、私に突きつけた。「自分ならどうするのか」。それは単なるサスペンス演出ではなく、私たちが生きる上で避けられない「選択」というテーマを象徴しているかのように私は感じた。

 

こんな人にオススメ!

  • 韓国スリラー映画が好きで、緊張感ある逃走劇を味わいたい人
  • ウィ・ハジュンやチン・ギジュ出演作を観たい人
  • とにかくハラハラする展開が好きで、最後まで息をつかせぬ作品を求める人
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まとめ

『殺人鬼から逃げる夜』は、リアリティに欠ける部分もあるが、無音の緊張感や逃走劇の疾走感で観客を惹きつける韓国スリラー映画である。特に聴覚障害を恐怖の装置へと昇華した演出は秀逸で、他作品にはない独自性を放っている。

近年話題のゲームから映画になった『8番出口』。

『殺人鬼から逃げる夜』は逆に映画からゲームにしたら面白そうだなぁとちょっと考えた。主人公には聴覚がなく、音に反応して光るライトを頼りに攻略していく、そんなホラー風ゲームだ。

東宝の回し者じゃないよ。

さぁ、ユニークな魅力を備えた本作は、サスペンス好きやスリリングな体験をしたい人には、ぜひおすすめしたい一作である。

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映画『殺人鬼から逃げる夜(2021年)』の作品情報まとめ(監督・キャスト・配信情報など)

  • 監督:クォン・オスン
  • 出演:チン・ギジュ、ウィ・ハジュン、パク・フン、キム・ヘユン、キル・ヘヨン
  • 公開年:2021年
  • ジャンル:サスペンス、スリラー

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