―独特な会話劇の世界観が印象的な作品―
感想『26時13分』レビュー
映画『26時13分』は、深夜の高速バスの事故をきっかけに、乗客たちが「午前2時13分で止まった世界」に迷い込むことから始まるファンタジー仕立ての会話劇である。
その世界は生と死の狭間にあり、謎めいた案内人は、「本来は7人が命を落としたが、1人だけ蘇ることができる」と告げる。
突然の選択を前に、集められた乗客たちは、自身の人生を振り返りながら、誰が生き残るべきかを議論していく――。
日本映画『26時13分』。ワンシチュエーションで進行する会話劇という点では独自性があり、挑戦的な作品である。個人的な好みとしては少し取っつきにくく感じた部分もあったが、静かに物語の世界観を味わいたい人には興味深く感じられるだろう。
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映画『26時13分』あらすじ
案内人によれば、実際に命を落としたのは7名であり、これは「間違えて」ここに導かれた1名が復活できるチャンスであるという。突然の選択を前に、各人の頭には夢や後悔、家族への思いが交錯する。彼らはどうにかして1人を選ぶのか、それとも別の道を模索するのか。果たして、この“死後の交差点”で導かれる結末とは?

映画『26時13分』の演出と舞台性について
映画『26時13分』を視聴してまず感じたのは、その舞台的な演出である。高校生が文化祭などで披露する演劇のような雰囲気があり、映像作品というより舞台芝居に近い印象を受けた。
インディーズ映画かと思うほどシンプルな構成でありながら、実際には商業映画として製作されている点が興味深い。キャストには知った顔もあるが、ほとんどは見たことがない。
全体的には大げさな演技が目出ち、抑えたリアリズムを期待すると少々の違和感を覚える。ただし、舞台的な表現を好む人には独特の魅力として映る可能性もある。
おそらく、恐ろしく低予算で作られたであろう本作品。ガランとした古びた倉庫のような空間。そこで劇は披露されるが、小道具はスツールと黒電話だけというミニマルな構成であり、その潔さは挑戦的でもある。もし美術面でアンティークなものを取り入れていれば、それなりに雰囲気が出ただろうとは思う。
ストーリーは、ただ淡々と進む。シナリオに波はない。議論を中心に展開するため、テンポがゆるやかで単調に感じた。緊張感を持続させる演出があれば、もっと引き込まれたかもしれない。とはいえ、少人数のやり取りで映画を成立させようとした姿勢は実験的であり、制作側の挑戦的な意図は感じられる。
また、たまにホラー的な脅かし要素もあるが、必須ではなかったように思える。建物の外には黄泉に引きずり込むナニカがいるという設定だが、クライマックスではキャラクター全員が外に出ていくから整合性がない。なんのこっちゃと思う。ホラー映画ではないし、ミステリーやサスペンスでもない。かといって、感動を前面に押し出すようなドラマでもない。もちろん、アクションでもない。ジャンルは何になるのだろう。しいて言えばファンタジー?そのジャンルの曖昧さも本作の特徴といえる。
総じて仕上がりには粗さを感じるものの、会話劇としての可能性に挑戦した実験的な日本映画であることは確かであり、舞台性を好む観客にとっては注目すべき一作といえるかもしれない。
ストーリー展開と見どころ
『26時13分』のあらすじから、私はもっと、登場人物たちが「生き返る権利」を巡って激しく衝突し、死に物狂いで、必死にもがいてもがいて、人間の本性をさらけ出すような緊張感のある展開を想像していた。しかし、実際には大きな口論や対立は描かれず、激論はなく、比較的に全員が落ち着き払っていて、互いの人生を語り合うスタイルが採用されている。一応、盛り上げるために、銃を持った人物が一時的に場をかき乱す場面はあるものの、余興程度で終わって、物語の大きな転換点になるほどではなかった。
また、物語の序盤から、「誰が助かるのか」なんとなく見えてしまう演出があり、サプライズ性に乏しい点は惜しまれる。案内人は、「話し合いで1人を決めるように」と告げるが、最終的には議論で結論がでるわけではなく、ご都合主義的に選ばれてしまう印象を受けた。さらに、蘇りに選ばれなかったキャラクターたちは抗議することもなく、納得してすんなり受け入れる展開も、もう少しばかり葛藤が描かれていれば深みが増しただろうと思う。
アレンジ面では、主人公を励ますためにシンガーソングライター志望の人物がギターで弾き語るシーンがある。無謀的なトライではあったが、音楽的な説得力は弱く、聞き流すのもキツイできあがりの楽曲と練習不足の歌声。作品全体のリアリティに寄与していないように感じられた。音楽要素を盛り込むのなら、より完成度を高める工夫が望ましかったかもしれない。
総じて、『26時13分』は会話劇を通じて生と死を描こうとした意欲作でありながら、ストーリーの盛り上がりや演出面でなお改善の余地がある。しかしながら、落ち着いた語り口や静かな雰囲気を好む人にとっては、ほかにはない独特の体験になるかもしれない。
もし映画『26時13分』を改良するとしたら
ここでは手前勝手ながら、私が物語の設定を少しいじくってみようと思う。映画『26時13分』の舞台設定をアレンジしたら、どうなるのかを考えてみたい。物語をより引き締める工夫ができれば、作品の印象もグっと変わるはずだ。
例えば物語を、バスの中で展開させてみる。
バスは走っていて、黄泉の国に向かっているという設定だ。登場人物たちはバス事故に遭ったということであるから、バスの中で物語が進むというのはピッタリ当てはまる。
バスの運転手をそのまま案内人として登場させれば、物語に一貫性が出てくるだろう。実際の作中では、案内人の男は序盤に出てきて一旦いなくなり、終盤にまた登場するという構成だが、私が考える中では、黄泉の国への案内人としてバスを運転しつつ、というのが適当ではないだろうか。少しずつ、あの世へ向かっているという実感が味わえるだろう。
ああ、でも、作中ではバスの運転手2人も事故に遭っているんだった。立ち往生させて、そこに案内人を潜り込ませてみるか。
で、バスは閉鎖的であるから、その圧迫感が、物語に、より緊張感を与える。事故が起こったのは夜中の2時13分ということだから、窓の外は真っ暗のままでよい。余計な景色なんかを映す必要がないのだ。これで底予算でもバッチリだ。たまに謎の手がバスの窓でも叩いたりすれば、恐怖を煽ることもできるだろう。
さらにはバスは走っているから、もちろん途中で揺れたりする。議論のさ中、白熱して揉み合ったりした際に、ちょうどバスが揺れて床に倒れ込むなんていう描写があったら、なお臨場感が増すだろう。
また、誰かが勝手にバスを降りようとすれば、その瞬間に得体の知れないナニカに黄泉へ連れ去られる、といった展開も可能だ。実際の作品では倉庫のような場所で描かれていた場面も、バスという閉鎖空間ならより一層恐怖感を高められるだろう。
作中では天界と電話で会話をするシーンがあるが、これをバスに備え付けられた無線機で行えば、世界観に溶け込みやすい。
物語のラストで「蘇る1人」が決まったなら、現世行きのバス停で乗り換える、といった演出も印象的である。

このように、舞台を工夫するだけで作品の見え方は大きく変わる。かなり違った印象になるハズだ。
どうだろうか?素人が考えてはみたが、結構面白くなるんじゃなかろうか?
ともかくとして、数人で話し合って、誰が蘇るのかを決めると言うシチュエーション自体は魅力的なものであったから、後は、その舞台を最適に用意してあげれば良いのだ。演技やキャスト選び、美術のこだわりなどが噛み合えば、より完成度の高い日本映画になったのではないだろうかと考える。
こんな人にオススメ!
『26時13分』の魅力を整理すると、やはり「少人数の会話劇を通じて生と死を描こうとした挑戦的な日本映画」という点に尽きる。完成度に粗さは残るが、舞台劇のようなシンプルな演出、独特の雰囲気、そしてファンタジー的な設定は他の映画にはない個性である。
- 会話劇や舞台的な表現を好む人
- 低予算ながらも実験的な日本映画に興味がある人
- 死生観や人間模様を静かに描いた作品を求める人
まとめ
映画『26時13分』は、派手な議論バトルやスリルを期待すると物足りなさを感じるかもしれない。しかし、静かな会話劇を通じて人間の生と死を見つめ直すような作品を探している方、演劇風な雰囲気を楽しみたい方には、一見の価値があるように思う。
独自の空気感を持った日本映画を体験したい方に、オススメできる一本である。
映画『26時13分(2023年)』の作品情報まとめ(監督・キャスト・配信情報など)
- 監督:山口通平
- 出演:岡田結実、木村祐一、野村真美、赤塚真人、濱田英里、関口まなと、平川裕成、小堀裕之、高梨瑞樹、羽潤、高橋里帆、円谷優希、遊馬萌弥、善知鳥いお、斎藤愛莉、藤江萌
- 公開年:2023年
- 上映時間:74分
- ジャンル:ファンタジー