完全なる再現性。
感想『不思議の国でアリスと -Dive in Wonderland-』レビュー
ルイス・キャロルの名作「不思議の国のアリス」は、長きにわたり映画や舞台で数多くのアレンジを生んできた不朽のファンタジー作品である。
2025年公開の日本アニメ映画『不思議の国でアリスと -Dive in Wonderland-』は、その「アリス」の物語を新しい切り口で描いた作品である。
現代に生きる女子大生・安曇野りせ(CV.原菜乃華)が主人公となり、彼女が”アリス(CV.マイカ・ピュ)”と出会って不思議の国を冒険する中で、自分らしさや未来の選び方を問いかけるストーリーが展開される。
クラシックな「不思議の国のアリス」の世界観を受け継ぎつつ、現代的なテーマを盛り込んだ点が本作ならではの魅力である。
本レビューはネタバレを含みます。
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『不思議の国でアリスと -Dive in Wonderland-』あらすじ
その先で彼女を待っていたのは、アリスという名の少女との出会いである。ふたりは白ウサギや青虫、ハートの女王とトランプ兵、マッドハッターと三月ウサギ、ハンプティ・ダンプティ、トゥイードルダムとディーの双子、そしてチェシャ猫など、個性豊かな住人たちと次々に遭遇し、ハチャメチャな騒動に巻き込まれていく。
一見すると奇妙でユーモラスなこの冒険は、りせが誰かに合わせて生きるだけでなく、自分自身の「好き」や「ありたい姿」に気づき、自分らしい未来を見つけ出す旅へとつながっていくのである。
仕上がりと映像美。制作会社についての評価
日本アニメ映画『不思議の国でアリスと -Dive in Wonderland-』。
ストーリーはチャプター仕立てで展開していく。切り替わる毎にシーンが変わっていって、テンポの良さが特徴的。
タイトル通りの展開で、まさに主人公・安曇野りせがアリスと共にワンダーランドを冒険する物語である。
アニメーションの映像美については、特別に美麗というわけでもない。作画の密度や描き込みも一般的であり、劇場用だからと気合が入っている雰囲気もなく、昨今の1クールTVアニメ作品と大差は感じられない。もちろん、映像は安定はしていた。良い意味でいわゆる”日本のアニメ”といったカンジだ。
P.A.WORKSが制作を担当。
「SHIROBAKO」「花咲くいろは」などで有名なアニメーション会社である。個人的には「有頂天家族」や「凪のあすから」もPRしたい。
2025年ではオリジナルアニメ「日々は過ぎれど飯うまし」が好評を得た。
『不思議の国でアリスと -Dive in Wonderland-』は、子ども向き過ぎず大人向き過ぎず、まぁ主人公の安曇野りせはまだ大学生で、モラトリアムの範疇であるから、そういう意味では視聴しやすい作品に仕上がっていた。中学生に上がる前の子どもならば、取り合えずおとなしく観てくれるだろうという雰囲気。同時に、大人にとってもテーマ性を感じ取れる仕上がりではある。 とはいえ、過去に私が付き合っていた人の息子は、若干4歳にして大人でも解釈の難しい「紅の豚」のDVDを何度も何度も食い入るように魅入っていたから、なんとも言えない所ではある。
少し話題がそれてしまった。
総じて本作『不思議の国でアリスと -Dive in Wonderland-』は、万人向けと言えば万人向け。後述するが、良くも悪くも「不思議の国のアリス」”そのまんま”である。大人も子どもも安心して楽しめる王道的な仕上がりであり、クラシックな原作の魅力を現代に受け継いでいる点が印象的だった。

原作「不思議の国のアリス」の魅力と現代的リメイクの考察
本作は、原作「不思議の国のアリス」の奇抜な世界観を踏襲しつつ、映像表現やキャラクターのデザインが現代アニメ風にリメイクされていたのが印象的である。というか、そこらへんがウリだ。
特にマッドハンターやチェシャ猫の作画は、奇妙さと親しみやすさのバランスが取れていて、誰にでも受け入れやすいように仕上げられていた。 色彩こそも現代アニメであり、シーンごとに感情の揺れ幅を視覚的に補強していたのがポイントである。
そうはいっても、本作『不思議の国でアリスと -Dive in Wonderland-』は、本質的に原作「不思議の国のアリス」そのものであり、ストーリー上の大きな変化は見受けられない。現代的な映像と、ちょっとした主人公の背景を付け足したような内容だ。それだけに、本作の物語としての感想は原作への評価に帰結する部分が大きい。
そこで本稿では、敢えて原作「不思議の国のアリス」のストーリーを交えながら、このリメイク作品を評価していこう。
原作「不思議の国のアリス」のイマジネーションと影響力
原作「不思議の国のアリス」が現代まで読まれ続けている理由は、主人公のアリスが体験する世界が論理も物理法則も、倫理感でさえも破綻しているが、それと同時にイマジネーションが現代でも通用するほど鮮やかでエバーグリーンだからだろう。
サイズが変わる食べ物、喋る動物、奇天烈なキャラクターたち。それらは現代のファンタジー作品にも強い影響を受けており、そしてこと『不思議の国でアリスと -Dive in Wonderland-』もその系譜を受け継ぐ一作である。且つ、更に絵本や童話や小説の表現よりも鮮やかに描いている。
大人も子供も、おねーさんも。楽しめる構造
子どもにとっては「不思議で楽しい冒険物語」であり、大人にとっては「言葉遊び」「風刺」「ナンセンス文学」として楽しめる。特にナンセンスは、本作においてアリスが口癖のように発する言葉だ。
読み返す度に新たな発見があり、その発見を本作は改めて再認識させている。
現代社会との接続とテーマ性
「現実を覆す」「常識を揺さぶる」といった「Alice's Adventures in Wonderland」の構造は、社会が大きく変化する時代こそ共感されやすいと私は思う。現代の不安定な社会状況において、アリスが体験する”理不尽な世界”は、私たちの現実においても通じるものがある。
『不思議の国でアリスと -Dive in Wonderland-』においては、安曇野りせの就活生としての、学生から社会人へと変化する様子を描写している。社会の不条理さ、私たちの世界の残酷さを示しているようである。
アイデンティティの探求と成長物語
アリスは物語の中で、大きくなったり小さくなったりしながら、自身が誰なのかを夢のなかで問い続ける(夢であったかのような描写を原作ではしている、ように私は感じる)。これは子どもが成長する過程で、「自分とは何か」を探索する姿を象徴しており、そしてそれは安曇野りせを表している。
学生から社会への環境の成長、モラトリアムから青年期ではなく成人期への成長を示しているのである。
エリクソンの提唱した「8つの発達段階」は、保育士試験科目「保育の心理学」でも良く出題されるので、覚えておくように(保育士資格保有者)。
普遍的テーマとリメイクの意義
「不思議の国のアリス」が現代でも愛され続ける理由は、自由奔放なイマジネーション、アイデンティティの探求、常識を揺さぶる構造といった普遍的なテーマを扱っているからである。時代や文化、国が変わっても、人間が抱える根源的な問いに触れているため、世代を超えて読み継がれているのだ。
そしてそれを、『不思議の国でアリスと -Dive in Wonderland-』で現代風にリメイクしたのである。タブンネ。
ストーリー紹介と感想|原作との比較
ある夏の日、退屈していた少女アリスは、ベストを着て懐中時計を持った白ウサギを目にする。驚いてその後を追いかけていくと、深い穴に落ちてしまい、不思議の国へと迷い込む。
アリスはそこで、体が大きくなったり小さくなったりする不思議な体験を繰り返しながら、奇妙な住人たちと次々に出会っていく。
- 涙でできた大きな池で泳ぐシーン
- 煙を吐く青虫との会話
- 笑いながら姿を消すチェシャ猫
- 狂ったお茶会を開くマッドハッターと三月ウサギ
- 「首をはねろ!」と叫ぶハートの女王
まぁ~~~~~変わらない。要所要所で解釈の違いはあれど、『不思議の国でアリスと -Dive in Wonderland-』のほとんどが原作のそれである。 ストーリーもまぁそのまんま。強いて言うなら、主人公の安曇野りせがうまくいかない就職活動に悩んでいることと、アリスと二人で冒険をするところだろうか。しかしながら、そのアリスもとどのつまり安曇野りせ自身であり、鏡のような存在である。
原作「不思議の国のアリス」でアリスはアイデンティティを探し求めるが、結局『不思議の国でアリスと -Dive in Wonderland-』でも就職活動という前提を通して安曇野りせはアイデンティティを探し求める。
私自身の正直な感想を言うと、もっと独創性というか、せっかく就職活動に悩む大学生を描いているのだから、もっと現実的な葛藤を掘り下げて欲しかった。誤解を恐れず率直に表現するならば、「別に不思議な世界を体験しなくても自分探しは出来たんじゃね?」である。
言わずとも、自分探しの映画作品は多数に存在する。同じように就職や、または結婚、子育ての悩みなど、そのようなテーマを扱ったものはいくつもあるのだ。 それらの作品の主人公たちは、過去に行ったり未来に行ったり、あるいは”if”の世界で経験したことを元の世界に持ち帰り、成長していくディティールがある。
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それが、本作『不思議の国でアリスと -Dive in Wonderland-』にはない。いや、成長はする。確かに主人公である安曇野りせは成長をするのだが、映画作品ならではの”特別感”は薄かったように思う。その点で印象に残ったのは精々、自由奔放なアリスと、悪い意味での周りとの”協調性”に縛られて自身を守っている安曇野りせとの対比くらいだろうか。
結論として、「Dive in Wonderland 感想」としては“完全なる再現性”に尽きる。オリジナリティという点では弱さが目立った。
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普段、私は劇場には一人で足を運ぶのだが、友人が本作をかねてより観たかったというので、一緒にシネマへ赴いた。
視聴後、私は友人に問うたのだ。「まんま、不思議の国のアリスだったよね?なんで作ったんだろ?」
友人は答える。「よっぽど、不思議の国のアリスが好きなんだろうね。」
――つまり、本作は「アリス好きのためのアニメ映画」という立ち位置に収まる作品だったのだ。
こんな人にオススメ!
- 『不思議の国のアリス』の世界観が好きで、新しい解釈を楽しみたい人
- 現代的なテーマを盛り込んだファンタジーアニメ映画を探している人
- P.A.WORKSの作品が好きで、最新の映像表現をチェックしたい人
- 子どもから大人まで一緒に楽しめるアニメ映画を求めている人
- 自己探求や成長をテーマにした物語に共感できる人
まとめ
日本アニメ映画『不思議の国でアリスと ―Dive in Wonderland―』は、ルイス・キャロル原作『不思議の国のアリス』の魅力を継承しつつ、現代の視点を重ねた新しい物語である。
P.A.WORKSらしい安定した映像表現と、誰もが共感しやすいテーマ性を兼ね備えており、ファンタジー好きにもアニメファンにもそれなりに満足度の高い一本といえる。
子どもから大人まで、幅広い世代に受け入れられる作品である。全く新しい体験をしたい人には瑕疵(かし)あるが、クラシックとモダンが融合したアリスの世界を体験したい人には是非オススメしたい。
映画『不思議の国でアリスと -Dive in Wonderland-(2025年)』の作品情報まとめ(監督・キャスト・配信情報など)
- 監督:篠原俊哉
- 出演:原菜乃華、マイカ・ピュ、山本耕史、八嶋智人、小杉竜一(ブラックマヨネーズ)、山口勝平、森川智之、山本高広、木村昴、村瀬歩、小野友樹、花江夏樹、松岡茉優、間宮祥太朗、戸田恵子
- 公開年:2025年
- 上映時間:95分
- ジャンル:アニメ、ファンタジー
- 配信: