のんびり映画帳

映画レビューブログ「のんびり映画帳」。B級映画、配信作品、名作から地雷まで本音レビュー。感想だけでなく、独自の意見や考察を交えます。できるだけネタバレは控えています。

ホーム feedly お問い合せ PrivacyPolicy

映画『あのコはだぁれ?(2024年)』は怖い?感想と考察|曖昧さが作り出す不気味な余韻

陰湿でおぞましい本格ホラー。曖昧さがさらに恐怖を深める。

映画『あのコはだぁれ?』感想レビュー

夏休みの終わりも近い、静かな学校を舞台にした本格ホラー映画『あのコはだぁれ?』。居ないはずの“誰か”が確かにそこに──そんな不穏な空気の中で、教師と生徒たちが体験する恐怖と記憶の物語である。一見すると学園怪談のような印象を受けるが、ストーリーが進むにつれて「音」と「存在」をめぐるテーマが浮かび上がってくる。 

近年のガチなホラー映画は、かつてのジャパニーズホラーのような完成度を持つ作品は少なくなったと私は感じる。Amazonプライムビデオで「ホラー」とさらり検索した程度だが、評価★4以上の日本映画はなかなか見つからない(洋画や韓国映画では稀にある)。私がレビューした中で『きさらぎ駅』や映画『見える子ちゃん』はそれなりに評価されているが、それでも前者は★3で、しかもガチなホラーとはいえないし、後者は評価が脅威の★4.4だが、コメディに寄っていてやっぱりガチホラーとは呼べない。『映画版 変な家』は残念な仕上がりであるし、『事故物件 恐い間取り』は再生開始20分で観るに堪えられなくて視聴をやめた(こちらはレビューなし)。

.ホラー映画レビューはコチラ.

www.ikakimchi.biz

www.ikakimchi.biz

www.ikakimchi.biz

かつて日本どころか世界を震撼さえた『リング』や『呪怨』のような日本ホラー映画の再来はもうないのだろうか。 そんな時に目に入ったのが映画『あのコはだぁれ?』である。「学校の怪談」を思わせるようなタイトルとビジュアルで一旦はスルーしたものの、評価は★3.5でホラー映画としてはまぁまぁ、そして本稿を書いている時点での「Amazonランキング映画トップ10(日本)」では6位という位置づけに興味を引かれた。

本作は映画『ミンナのウタ』の精神的続編の立ち位置であるらしい。他の人のレビューには「前作を見ておくべき」「単独でも楽しめる」と意見が分かれているが、私はこの情報を視聴後に知ったので、前作未視聴の立場でレビューしていく。

▶ 読みたいところだけチェック

 

『あのコはだぁれ?』あらすじ

夏休み、臨時教師の君島ほのかは補習クラスを担当することになる。 静かに見えた教室で、ある日、生徒の小日向まりが突然屋上から転落。 その直前、彼女は「わたしの音、聞いて」とつぶやいていた。
事故をきっかけに、生徒たちが口にする「“あのコ”を見た」という噂が広がる。 存在しないはずの少女、“あのコ”とは何者なのか。 やがてほのかは、過去の学校の事件と、そこに残された“音”の記憶へと辿り着いていく──。

映画『あのコはだぁれ?』ストーリーと恐怖演出の評価

ストーリー冒頭から、いきなり主人公・君島ほのか(渋谷凪咲)の恋人・七尾悠馬(染谷将太)が悲惨な目に遭うので、序盤の引き込みはGOOD!この導入のテンポと緊張感は非常に良く、観客を一瞬で作品世界に引きずり込む力があった。 しかしながら中盤にかけては少々間延びしてテンポが落ちる印象も。とはいえ、それ以降は冗長さではなく“間(ま)”として機能し、恐怖の余韻を増幅させていく。

ストーリー構成は難解で、ホラー映画にありがちな、一応は筋道を通っているがそれでも謎を残すような終わり方をする。 映画『ミンナのウタ』の精神的続編という位置づけからも、やはり前作を視聴しておくべきだったか。理解が深まる部分もあったかもしれない。 しかしながらレビューを見る限り「前作を視聴していてもわからない部分は多い」という感想もあったので、考察型ホラーとして楽しむのが正解だろう。

また恐怖演出は、大変に丁寧。効果音や構図、照明の使い方にも工夫が見られる。 ただし、私は平均よりかなりホラー耐性があるっぽいので、怖いかどうかと言われれば主観的には怖くない。むしろ“見事”といった印象だ。一般的な視聴者には、しっかりとした恐怖体験になるはず(多分)。 ジャンプスケア(突然の驚かし)には頼らず、静けさの中に不気味を積み上げていくタイプの演出である。

キャラクター面に関しては、山川真里果の演技が圧倒的。母親役としての狂気と哀しみを見事に体現しており、たびたび登場するにも関わらず、そのシーンの緊張感は群を抜いている。あのおぞましさとインパクトはかなりものだ。間違いなく本作のハイライトのひとつである。あの演技を見られただけでも、本作を視聴した意味があると言っても過言ではない。それほどに凄まじい存在感を放っていた。

総じて、『あのコはだぁれ?』は近年の邦画ホラーの中ではかなり健闘している作品であると私は感じた。 恐怖の質も高く、映像演出が巧み。 母親役の山川真里果がそこら辺をほとんど持って行っちゃってる感は強いものの、恐怖要素は抜きん出ている。謎解きを求めるよりも、“恐怖そのもの”を味わうタイプのホラーとして評価できる。 純粋に怖い映像を楽しみたい人には、自信をもってオススメできる一本だ。

暗い場所で何かに驚いている女性

『暗い場所で何かに驚いている女性』

 

得体のしれない恐怖体験

ここでは、映画『あのコはだぁれ?』が仕掛ける“得体の知れない気持ち悪さ”について掘り下げる。

清水崇監督最新の学園ホラー作である本作は、明確な“恐怖”よりも、夢と現実の境界があいまいになるような“幻覚的な不確かさ”を恐怖の核としている。登場人物が幻の世界に迷い込んでいるように見えたり、同じ人物が別の姿で再び現れたりして、視界の裏側にある何かを予感させる仕掛けが随所に仕込まれている。これが“リアルなのか虚構なのか分からない恐怖”を際立たせる要因だ。

とりわけ印象的なのが、同じ台詞の反復演出だ。ある台詞が何度も繰り返されることでタイムループをしているような錯覚を誘い、そのたびに言葉や文脈に微妙な狂気が混ざっていく。その不気味さがなんとも言えない恐怖を体験させる。一旦は終わりを見せるそのシーンも、終盤で再度登場することで、最初の印象が徐々に裏返されていくような、恐怖の高まりが身体にじわりと響く。まるで発売中止になったゲーム「P.T.(サイレントヒル)」のようだ。

どうやらこの繰り返しの表現方法は、監督である清水崇の得意とするところらしい。

また、上述したが、そこに山川真里果の演技が組み合わさって不気味さを倍加させている。彼女が演じるキャラクターが“得体の知れない何か”の象徴とも言える存在感を持ち、不吉な空間の中で視聴者の視線を引き寄せずにはいられない。もし、このキャラクターが登場していなかったら、作品の恐怖の質は確実に別のものになっていたことだろう。

この映画は、典型的なジャンプスケアにはあまり頼らない。というか、全く頼っていない。それゆえ、人によっては怖さの感じ方に差が生まれるだろう。けれど、ただ“びっくりさせる”ホラーでは物足りない人にとっては、この“気持ち悪さ”や“曖昧さ”はむしろ新鮮であり、後からも思い返したくなる怖さを残す。

是非とも、ただ脅かすだけのホラー映画とは違う、気味の悪さによる恐怖を体験してみて欲しい。

 

ホラー映画における“曖昧さ”という恐怖演出

ホラー映画を視聴していると、ストーリーがどこか曖昧で、物語の最後まで明確な解答を示さないままの作品が少なくない。この「曖昧さ」は、決して脚本の弱さではないと私は考えている(その場合もあるけど)。むしろ恐怖を視聴者の内側に長く残すための“意図的な仕掛け”だろうと私は思う。

ホラー映画における恐怖という感情は、画面の中で完結してしまえばすぐに消えるものだ。しかし、真に怖い作品というものは、観終わった後に「結局あれは何だったのか」「自分も同じ状況にいたら」と思考が続いてしまう。その“後引き”こそがホラーの醍醐味であり、曖昧さがその装置として機能している。

映画『あのコはだぁれ?』もその典型である。夢と現実、幻覚と記憶の境界が溶け合って、視聴者は常に“どこまでが現実なのか”を疑いながらストーリーを追う。説明を排除した描写や、不明瞭な人間関係、未解明の自称。それらは欠陥ではなく、視聴者の想像力を刺激するための余白である。 清水崇監督は映画『呪怨』以来、この“余白の恐怖”を一貫して得意としており、映像の中ですべてを語らない。そしてそれが、視聴者の脳内に残り続ける“得体のしれない恐怖”を生み出している。

明確な説明は安心感を与える。一方で、説明を拒む物語は、「理解できない不安」を残す。この不安が日常生活でもふとよみがえる瞬間──例えば暗い廊下を通るときや、何もないはずの部屋で音を聞いたとき──、作品は記憶の中で再生される。 つまり、ホラー映画の“曖昧さ”とは、上映時間を超えて恐怖を延命させるための心理的トリガーなのだ。

『あのコはだぁれ?』のような曖昧なホラーは、人によって感想や意味が変わる。 “わからなさ”を楽しめる人にとっては、それは最高のホラー体験だろう。 恐怖とは、正体を知った瞬間に消えてしまうものだからこそ、あえて輪郭へのピントをずらすことが、最も効果的な恐怖表現なのだと私は思う。

 

こんな人にオススメ!

映画『あのコはだぁれ?』は、派手な脅かしや流血表現に頼らず、静かな不安と違和感でじわじわと心を侵食してくるタイプのホラー映画である。単なる怖がらせではなく、“記憶”や“存在の曖昧さ”をテーマにした心理的な恐怖を体験したい人にオススメである。

  • ジャンプスケアではなく、雰囲気で恐怖を味わいたい人
  • 『呪怨』や『犬鳴村』など、清水崇作品の演出が好きな人
  • 見終わったあとも「あれは何だったのか?」と考え続けたい人
  • ストーリーよりも空気感・演出を重視するタイプの映画ファン

単純に“怖い”よりも、“不気味で理解できないものの怖さ”を求める人にはぴったりの一本である。

 

曖昧さの中に残る恐怖

映画『あのコはだぁれ?』は、観る者にすべてを説明しない。 しかしその不親切さこそが、視聴者の想像力を刺激し、心の奥に恐怖を焼き付けるのだ。現実と幻覚との境界が曖昧な世界の中で、私たちは“理解できない不安”と向き合うことになる。

清水崇監督の手腕によって描かれるこの静かな悪夢は、ラストを迎えても決して終わりはしない。 エンドロールが流れても、ふとした瞬間に思い出してしまう不穏さが残る。 それこそが、本作が持つ本当の恐怖であり、ホラー映画として、ある意味で完成形の一つであると言えるのかもしれない。

🎬 『あのコはだぁれ?』はAmazonプライムで配信中

 

映画『あのコはだぁれ?(2024年)』の作品情報まとめ(監督・キャスト・配信情報など)

  • 監督:清水崇
  • 出演:渋谷凪咲, 早瀬憩, 山時聡真, 荒木飛羽, 蒼井旬, 今森茉耶, 穂紫朋子, 染谷将太
  • 公開年:2024年
  • 上映時間:107分
  • ジャンル:ホラー

当サイトはアマゾンアソシエイト・プログラムの参加者です。
適格販売により収入を得ています。

© 2023– のんびり映画帳