中途半端だが魅入ってしまう青春アクション
映画『ポライト・ソサエティ』感想レビュー｜スタントウーマンを夢見る少女の奮闘劇
映画『ポライト・ソサエティ（Polite Society）』は、スタントウーマンを夢見る少女リア（プリヤ・カンサラ）が、姉リーナ（リトゥ・アリヤ）の突然の縁談をきっかけに“戦う理由”を見つけていく青春アクション映画である。 本作は、そんな一見突飛な設定を、エネルギッシュな映像とユーモアで突き抜ける作品である。社会の期待や家族の枠に押し込まれそうになりながらも、自分の信念を貫こうとする少女リアの姿には、笑いの中にも確かな痛みと共感がある。アクションと青春、そしてシスターフッドの物語が軽快に絡み合い、最後まで勢いよく駆け抜けていく。
作品紹介ビジュアルが魅力的で視聴を開始。音楽も雰囲気もボリウッド（インド映画）っぽい印象だけど、実際にはイギリス映画。舞台もイギリスのロンドン。でも家系はパキスタンとややこしや。多層的な背景がストーリーに奥行きを与えている。高校生のリアがカンフーで戦うという設定もユニークな、青春コメディ・ストーリー。監督であるニーダ・マンズールも自身で「カンフー・ボリウッド叙事詩」と述べていて、ジャンルを自在に横断する意欲作である。
正直、私の感想としては武術映画としてもボリウッドとしても、ドラマとしても中途半端で物足りないカンジではあるが、しかし何故だか魅入ってしまう力をもつ不思議な作品。本作のその謎をレビューしていこう。
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『ポライト・ソサエティ』あらすじ
ところがそのリーナが、ある日突然、医師の青年サリムと出会い、電撃的に結婚の話を進めてしまう。祝福ムードの中で、リアだけはどこか違和感を覚える。姉の決断の裏に何かが隠されているのではないか——。
真相を確かめようとするリアは、仲間たちとともに“ある計画”を立てる。 家族への愛情と反発、夢と現実のはざまで揺れる少女が、自分の信じる道を突き進んでいく姿を描く青春アクション・ドラマである。
ポライト・ソサエティの魅力：テンポとキャラクターの個性
上映時間は約100分と個人的に視聴しやすい長さで、テンポも軽快である。登場人物たちはきびきびと動いて、台詞の掛け合いにも独特のリズム感がある。インド映画を思わせるような衣装や舞台美術はきらびやかで美しく、視覚的にも飽きさせない。
ストーリーはめちゃシュールで、現実離れした展開が続く。しかし、その突飛さをキャラクターたちの魅力が見事に支えていた。各キャラクターはそれぞれに個性が際立ち、誰もが物語を動かす一要素として機能している。そのおかげで、奇抜な設定にも関わらず不思議と引き込まれるのだ。
随所に挿入される武術アクションも見どころの一つ。技の完成度よりも演出の勢いで魅せるタイプで、リアが姉との口論の末に喧嘩に発展しドアをぶち破ったり、いじめっ子との対決でキャビネットを粉砕したりと、過程よりも結果で笑わせてくる豪快さがある。リアの戦う姿勢が、作品全体をポップに彩っている。
「姉妹の絆」を軸にしたストーリーがウリとして紹介されている本作だが、実際には妹リアが姉を必死に守ろうとする一方的な奮闘劇である。理解されず空回りする彼女の姿はどこか切ないが、その不器用な想いが観る者の胸を打つ。派手さよりも心の熱を描いた作品であり、リアのまっすぐな愛情が静かに心に残る。
スタイリッシュな演出と音楽センス｜『ポライト・ソサエティ』の映像構成
映画『ポライト・ソサエティ（Polite Society）』の魅力の一つは、その映像演出と音楽センスにある。アクション映画としての勢いと、青春映画としての瑞々しさを両立させるために、極めてリズミカルな構成を組んでいるように感じる。実際に視聴していてそのテンポとリズムが心地よく、軽快な編集とポップでボリウッドな音楽の融合が、リアの破天荒な行動をむしろ爽やかに描き出していた。
特に印象的だったのは、戦闘シーンと日常の切り替えの巧みさである。現実と空想が入り混じるようなカメラワークは、主人公リアの内面の葛藤やパッションを視覚的に表現しており、普通のアクション映画では終わらない厚みを生み出していた。スローモーションや過剰な演出も多いが、かえってそれが作品全体の個性を確立しているのだと思う。
再度、音楽面ではボリウッド風のリズムとイギリス映画的なクールさが共鳴しており、日常パートでも家の場面ではインドのような、学校での出来事ではイギリスのような雰囲気を醸しており、シーンごとに異なる文化の”ノリ”が感じられる。劇伴が物語の緩急を巧みに支え、アクションとドラマの境界を曖昧にする。この独特の音楽構成は、単調になりがちな青春ドラマを鮮やかに変化させる重要な要素であるようだった。
総じて『ポライト・ソサエティ』は、演出・音楽・構成の三拍子が絶妙にかみ合ったスタイリッシュな青春アクション映画である。映像のキレ味と音楽のテンポが、リアの型破りなエネルギーと合わさりあって、他に類を見ないリズム感を生み出している。
『ポライト・ソサエティ』というタイトルの意味と皮肉
映画『ポライト・ソサエティ（Polite Society）』――直訳すればその意味は「礼儀正しい社会」というものだが、作品の内容も主人公リアの行動も、台詞でさえも、お上品とは言えない。タイトルの印象とは真逆で、礼儀正しさとは程遠い世界が描かれている。
作中ではリアは姉を守るためとはいえ、突拍子もない行動を取る。姉の婚約者の家に忍び込むこともあれば、変装してジムの男子更衣室に侵入する場面もある。果ては結婚式を目前にした姉を連れ去ろうとするほどだ。台詞も過激で遠慮がなく、下に寄った単語が飛び交いお下品だ。とても「ポライト・ソサエティ（礼儀正しい社会）」ではない世界が描かれるが、そうした無礼で型破りな言動の数々が、むしろリアというキャラクターの純粋さと情熱を際立たせている。
一方で、リアを取り巻く大人たち――とくに姉の婚約者であるサリム（アクシャイ・カンナ）は医師の肩書を持ち、一見すると完璧な紳士、まさに「ポライト（礼儀正しい）」側の人間に見える。しかしその実、裏には隠された一面があるのだ。ついにはその大人たちのポライトではない部分をリアが暴くのだが、映画タイトル「ポライト・ソサエティ（礼儀正しい社会）」は、上品さを装う社会や大人たちに対する皮肉と風刺を込めて説明している言葉なのである。
リアの無鉄砲な行動と、見せかけだけの「礼儀正しさ」を持つ大人たち。その対比こそが本作の核であり、映画タイトルの意味を逆説的に体現している。『ポライト・ソサエティ』というタイトルは、礼儀の仮面をかぶった社会への痛烈なユーモアであり、観終えた後にその意図の巧みさに気づくだろう。
未視聴の人は、ぜひ「ポライト・ソサエティ（礼儀正しい社会）」な世界を堪能して欲しい。
こんな人にオススメ！
映画『ポライト・ソサエティ（Polite Society）』は、王道の青春ドラマとは一線を画した独特のテンションを持つ作品である。アクションやコメディの枠に収まりきらず、姉妹の絆と家族の価値観を軽妙に描く本作は、意外なほどに幅広い層に響くだろう。
- ボリウッド映画や英国映画のテイストをミックスした作品が好きな人
- 強くてちょっと不器用な女性主人公に魅力を感じる人
- 型破りなストーリーや個性的な演出を楽しみたい人
- アクションや「心の熱さ」を重視する青春映画が好みの人
- 姉妹の関係性や家族の絆をテーマにした物語に惹かれる人
リアの無鉄砲さに共感する人もいれば、彼女の奮闘する様を微笑ましく見守る人もいるだろう。観る人の立場によって印象が変わる、そんな多層的な魅力を持つ映画である。
まとめ：礼儀正しい社会なんて、ぶち破れ
『ポライト・ソサエティ』は、青春・アクション・家族愛・社会風刺を絶妙にブレンドした異色の映画作品である。ストーリーの突飛さに戸惑う部分もあるが、そこにこそ本作のメッセージが込められている。礼儀や常識に縛られた「ポライト・ソサエティ（礼儀正しい社会）」を爽快にぶち壊していくリアの姿は、観ていて痛快である。
本作は、完璧に整った映画ではない。しかしながら、粗削りさを含めて愛おしい。エンタメの力で社会を皮肉りながら、我々に“自分らしさ”を貫く勇気を与えてくれる。『ポライト・ソサエティ』は、完璧ではないからこそ心に残る青春アクション映画である。
映画『ポライト・ソサエティ（2024年）』の作品情報まとめ（監督・キャスト・配信情報など）
- 監督：ニーダ・マンズール
- 出演：ティム・ビーヴァン, エリック・フェルナー, オリヴィエ・ケンプファー, ジョン・ポーコック
- 公開年：2024年
- 上映時間：104分
- ジャンル：アクション, コメディ, 青春
