ホテルでのそれぞれの非日常を描く
映画『ホテルローヤル』感想レビュー【ネタバレなし】
映画『ホテルローヤル』は、北海道の片隅に佇む古びた宿泊施設を舞台に、そこに関わる人々の人生が静かに交していくヒューマンドラマである。波瑠が主人公・田中雅代を演じ、父・田中大吉役に安田顕、母・田中るり子役に夏川結衣。さらに松山ケンイチ、伊藤沙莉、岡山天音など豪華キャストが集結。監督は武正晴、原作は桜木紫乃の同名小説(第149回直木賞受賞作)である。

Amazonプライムビデオの「人気急上昇」に上がっていたため、つい視聴を始めてしまったが、正直に申し上げれば失敗だった。案外「人気急上昇」はあてにならない。以前『忌怪島』もランキングに入っていたが、内容は惨憺たるもので、あの映画を私は途中退席した。
アレは酷かった。
本作も同じく、結構な期待外れだった。薄い人間ドラマ、笑えないユーモア、安っぽい感動。演出も軽く、心に残るシーンがほとんどない。さすがに途中退出はしなかったが。
昭和感漂う映画だ。悪い意味で。
キャスト陣は豪華である。松山ケンイチや伊藤沙莉、岡山天音といった、わりと有名どころの俳優陣が出演しているにも関わらず、それが十分に活かせていないと感じた。登場人物一人ひとりのドラマが浅く、感情移入しづらい構成だ。
Yahoo!のレビューでは★3.1。普通の映画と呼べるものなのかどうなのかわからないが、私には何一つ刺さらなかたった。最後まで観たものの、印象に残るものは少なかった。
もちろん、本作が好きな人もいるだろう。私自身もこの映画を否定するつもりはない。ただ、私の中では「駄作ではないが凡作以下」という位置づけである。
映画との出会いは、人と同じく相性があるものだ。今回は残念ながら私には合わなかったが、それもまた一本の映画体験である。
私は「最後まで観た映画はレビューを書く」という自分ルールがあるから、自分には響かなかった映画のレビューも書くのだけれど、とは言えせっかく観るなら良かったと思える映画を観たいし、どうせレビューを書くなら「面白かったよ」と伝えるレビューを書きたい。もっと審美眼を磨こうと思う。
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映画『ホテルローヤル』あらすじ
『ホテルローヤル』のストーリー構成とテンポの悪さ
映画『ホテルローヤル』のストーリーは、オムニバス形式で展開していく。ホテルに訪れた客たちそれぞれの人生を垣間見る構成ではあるが、そのどれもが終始だらだらとした印象で、テンポが極めて悪い。全体としても流れが鈍く、場面転換や感情の起伏に乏しいため、観ていて集中力が続かない。
原作は直木賞受賞作品かぁ。
おそらく本作は、「ホテル」という特殊で非日常的な空間を通して人間模様を描きたかったのだろう。しかし、ストーリーは薄くて浅いし、淡白だ。登場人物たちの背景や感情に深掘りが少なく、どのエピソードも表面的な印象が拭えない。つらつらと出来事を並べても、それはドラマなどではない。観終わっても、掴み取れるものはほとんどなかった。
私の感性が鈍いだけかもしれないが、Yahoo!映画で★3.1という評価が示すように、一般的に見ても“高く見積もってその程度”の作品であることは否めない。本物なら★4は超えてくるだろう。
個人的に、商業映画ならば★4は超えて欲しいと思っている。
エンドロールが流れ出した時は「やっと終わった」と思った。それくらい退屈だった。また、北海道が舞台なのに、画面に映されるのはこじんまりとしたホテルの空間だけで、北海道らしい雄大な風景がほとんど登場しないのも勿体無いところだ。
ただし、作品の雰囲気自体は穏やかではある。疲れて何も考えたくない時、寝っ転がってボーっとぼんやり眺めるのにはちょうど良いのかもしれない。気が付いたら眠りこけていたような。
ひとます、オレ、ご視聴お疲れさま。
熟年夫婦の姿に見た“本当の愛”
本作『ホテルローヤル』を全体的に見れば、どうしてもテンポや深みの薄さが気になってしまう。わりと酷評してしまった。しかしながら、全くの見どころがないわけでもない。オムニバス形式で人々のドラマが描かれることは話したが、中でも熟年夫婦(正名僕蔵, 内田慈)の物語には心を動かされた。
愛?それは、愛なのか?
このエピソードでは、長年連れ添った夫婦が、「ホテルローヤル」を訪れる。そのシーンが妙に胸に残る。互いをいたわり合い、時に照れながらも優しく触れ合う二人の姿に、単なる男女の関係を超えた“深い愛”を感じた。長い年月を共に過ごし、酸いも甘いも分かち合ってきた二人だからこそ見せられる表情が、画面越しにも伝わってくるのだ。
例えば街中で、熟年カップルや老夫婦が手を繋いで歩いていたりするのを見かけると、なぜだかこっちまで心がホッコリしてくる。その仲睦まじさが温かい気持ちにさせ、永遠の愛を誓い合った二人を象徴しているようだ。
そう感じるのは私だけ?
作中ではホテルが舞台であるから、もちろん手を繋ぐだけでは終わらない。二人で湯に浸かり、語り合い、寄り添う。若年層のそれとはまた違う、なんと表現すれば良いのだろう?穏やかさと温もりがあった。長年連れ添った二人だけの感情、たぶんその感情を表す言葉を私は知らない。その二人のような姿は、実際には映画のような媒体でしか見られないもので、長きにわたって互いを思い合ってきた、これからも支え合っていくような、とにかくそんな優しさに満ちているようだった。。。
嫁さんの方が言うのだ。
「ねぇ、私のパートで5,000円稼いだら、また来よう」
彼女がそう言うシーンは、本作でもっとも心に残る瞬間である。そこには見返りを求めない愛があり、生活の中で生まれる小さな幸せがあった。LOVE & PEACE。まさに夫婦の姿こそが“平和”そのものなのだ。
愛以外の何者でもない。そう私は確信した。
LOVE & PEACE!LOVE & PEACE!
世界平和は夫婦にありけり!
そんな芳醇なシーンだった。
『ホテルローヤル』を観るなら、この熟年夫婦のエピソードだけでも一見の価値がある。派手さはないが、静かな優しさが心を満たしてくれる、そんな印象的な一幕であった。
『ホテルローヤル』が描く「孤独」と「再生」
映画『ホテルローヤル』を語るうえで欠かせないのが、その根底に流れるテーマ──「孤独」と「再生」である。物語では登場人物たちの心の奥底に潜む寂しさと、そこから立ち上がろうとする微かな希望を静かに描いている。北海道という静寂の土地を背景に、人間の弱さと再生の瞬間をどう表現しているのか。「孤独」と「再生」、その二つのキーワードを軸に『ホテルローヤル』という作品の核心に踏み込んでみる。
■ 孤独とは何か
映画『ホテルローヤル』における孤独とは、登場人物たちが抱える「居場所のなさ」を意味している。
- 主人公・雅代は、母との関係に軋轢を抱え、大学受験には失敗して家庭にもなじめず、自分の存在価値を見失っている。
- 父・大吉は、家庭を顧みず、ホテル経営も妻に任せっきりで、結局は愛人をつくられ逃げられる。
- ホテルに訪れる客たちもそれぞれ、男女関係に疲れた人々、夢を諦めた者、逃げ場を求める者など、心の空洞を抱えている。
つまりこの作品で描かれる「孤独」とは、誰にも理解されず、自分の生きる場所を見いだせない寂しさそのものである。北海道の静かな景色の中で、登場人物たちの心の冷えた孤立が際立っている。
■ 再生とは何か
一方で「再生」とは、雅代が“ホテルローヤル”を受け継ぐ決意をする過程に象徴されている。
- 母が出て行った後、雅代はホテルを引き継ぎ、自分の手で切り盛りする。
- それは、過去から逃げることではなく、過去を受け入れて生き直すという意味での再生である。
ただし、映画ではその変化が唐突であり、感情の積み上げも薄い。主人公の成長や心の整理が丁寧に描かれていないため、再生のドラマとしての説得力に欠けるのが残念な点である。
■ テーマの構図
- 「孤独」=過去に縛られ、居場所を失った人々の姿
- 「再生」=雅代がその孤独を受け入れ、前に進もうとする決意
この二つの対比が『ホテルローヤル』のテーマ構造である。しかし映画では、各エピソードが断片的に並ぶだけで、主人公の心の動きや象徴的な演出が乏しい。そのため、視聴者に「再生の物語」としての実感が伝わりにくい仕上がりになっていると感じられる。
こんな人にオススメ!
映画『ホテルローヤル』は、派手さや起伏のある展開を求める人には退屈な作品かもしれない。っていうか私は退屈だった。それでもレビューでは賛否あり、静かな人間模様や登場人物の心の揺らぎに価値を見出せる人には、じわじわとした印象を残すだろう。
- 日常の中の「孤独」を静かに見つめたい人
- 波瑠や安田顕といった実力派俳優の演技を堪能したい人
- 派手なストーリーよりも、余白のある人間ドラマが好きな人
心に染み入る瞬間は少ないが、観終えたあとに「人の弱さ」を少しだけ受け入れられるようになる。そんな静かな時間を過ごしたい人には悪くない選択かもしれない。
総評:静かな余韻は残るが、深みに欠ける一作
映画『ホテルローヤル』は、「孤独」と「再生」という普遍的なテーマを扱いながらも、演出の薄さと構成の緩さが作品の響きを弱めている。役者陣の熱演や一部のエピソードは光るものの、全体としては心に残る一本とは言い難い。そうはいっても、人生の停滞期に視聴してみれば、どこか自分の姿を重ねてしまう部分があるかもしれない。
静かな午後、何も考えずにぼんやりと観たいとき──。そんなタイミングで選ぶなら、ちょうどいい一本である。
映画『ホテルローヤル(2020年)』の作品情報まとめ(監督・キャスト・配信情報など)
- 監督:武正晴
- 出演:波瑠, 松山ケンイチ, 余貴美子, 原扶貴子, 伊藤沙莉, 岡山天音, 友近, 夏川結衣, 安田顕
- 公開年:2020年
- 上映時間:103分
- ジャンル:ドラマ