若き日のおばあちゃんは美女だった。
映画『ベトナムの怪しい彼女』感想レビュー|ミウ・レ主演、奇想天外な若返りストーリー
ベトナム映画『ベトナムの怪しい彼女』(原題:Em Là Bà Nội Của Anh)は、韓国発の大ヒット映画作品『수상한 그녀(ミス・グランニー)』をリメイクした感動コメディ。主演はベトナムの人気女優ミウ・レ。年老いた女性が突然二十歳の姿に若返るという奇想天外な物語を、ユーモアと涙で描き出している。
主人公バ・ダイ(ハ・ホアイ・トゥーアン)は、頑固でお節介な性格が災いし、家族からも疎まれている孤独なおばあちゃんである。そんな彼女が偶然入った写真館で不思議な体験をし、若き日の姿――タン・ガー(ミウ・レ)として生まれ変わる。若返った彼女は、かつて諦めた歌手としての夢に再び挑戦していく。
タン・ガーとして人気を得ていく一方、彼女は家族への想いと自分の正体との間で葛藤することに。華やかな成功の裏に隠された“母として、祖母としての愛”が、物語をより深く温かいものにしている。
夢だった歌手として再びステージに立ち、注目を集めるタン・ガー。しかし、華やかな成功の裏で、彼女は家族への愛と過去への想いに心を揺らしていく――。

2015年くらいに多部未華子主演の日本版『あやしい彼女』を視聴して、すっかりその魅力にはまってしまった当時の私。その頃は韓国版や中国版、そして本作ベトナム版など、世界各国でリメイクが次々と制作され話題を呼んでいた。『ベトナムの怪しい彼女』は、劇場公開時、ベトナム国内の興行収入記録を塗り替えるほどのヒットだったという。
良い映画だったが、正直そこまでかというと……そうなのか?
私は多部ちゃんだけでなく他国の作品も観てみたいと思いレンタルショップを回ったが、なかなかに見つからなかった。当時でも NETFLIX などの映画のサブスクリプションは存在していたと思うが、その頃の私はそこまで映画にトップリ浸かってなかったので、月額料金を払ってまで視聴しようとは思わず、断念した。あれから幾年月、やっと夢がかなったのだ。ひとまずベトナム版が目に入ったので視聴し、中国版『20歳よ、もう一度』、そして最後に韓国と渡り歩くつもりだ。
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『ベトナムの怪しい彼女』あらすじ
しかし、成功の影で家族への想いが募り、彼女は“若さ”と“本当の自分”の間で揺れ動くことになる――。
序盤の印象とテンポ|ベトナム映画らしい言葉の強さ
『ベトナムの怪しい彼女』は、序盤の展開具合は少々のらりくらりと冗長なテンポで進んでいく。主人公であるおばあちゃんバ・ダイが、いかに家族や周囲の人々から疎まれている存在なのかを丁寧に描いているのだが、あまりに突き放される様子に、なにもそんなに無下にしなくても……。とは思った。
視聴していて心が痛むほどだった。
しかし、この描写があるからこそ、後半での感情の振り幅が際立つとも言える。バ・ダイは決して弱い女性ではなく、ああ言えばこう言うタイプで、憎まれ口を叩かれれば叩き返し、老婆とは思えぬほどのエネルギッシュさを放っており、相当に口が悪い。ミウ・レが演じる若返り後の姿との対比が一層鮮明に映る。
特徴的なのは、ベトナム映画特有のセリフの強さである。そういう風に映画を作ったのか、それともベトナム映画がそもそもそんな感じなのかは知らないが、言葉がかなりキツめというか、言葉にした自分さえも嫌な気持ちになってしまうようなワードが飛び交っていて、聞いていてハッとする場面も少なくない。おそらく文化的な言い回しや表現の違いもあるのだろうが、人によっては不快感を覚えるかもしれない。
子どもに観せるには注意が必要だと感じた。
中盤から終盤へ|ミウ・レの演技が光る
ストーリーが中盤に入るとテンポは安定し、進行具合も心地よくなる。上映時間は127分と若干長めだが、ラストまで駆け抜ける。むしろ、コメディ展開のテンポ感が絶妙で、観ていて飽きない。ミウ・レの自然体な演技が光り、内面の“おばあちゃんらしさ”を保ちながら若さを表現する演技力は見事である。若い姿なのに、仕草や動作がおばあちゃんなのには感心した。
また、劇中の“心の声”の描写も秀逸で、時折クスっと笑わせてくれる。こうしたコミカルな要素が、物語全体の重たさを和らげていた。
ラストの余韻|涙と家族のテーマ
クライマックスは一転してシリアスな展開へ。家族を想うバ・ダイの感情があふれ、彼女の息子からの感謝の言葉に胸を打たれる。観る者の心に静かに沁みてくる、感情の波が美しい。『あやしい彼女』シリーズに共通する「家族の再生」というテーマが、本作でもしっかりと描かれていた。
もっとも、物語としては家庭問題が完全に解決したわけではない。しかし、ラストシーンはそれを補って余りある温かさで締めくくられており、観終わった後には穏やかな余韻が残る。終わり良ければ総て良し――そう感じさせてくれる作品であった。
リメイク作品としての違い|日本版との比較で見えるベトナム版の特徴
本当ならば本家である韓国版『ミス・グランニー』と比較したいところではあるが、本レビュー執筆時点で私は日本版『あやしい彼女』しか視聴していないため、その対象は日本版となる。とはいえ、ベトナム、日本、両者の差はかなり明確だ。
ベトナム版『ベトナムの怪しい彼女』は、日本版と比べてコメディ要素が強い一方、ストーリーの根幹はより重く仕上がっている。物語の背景にはベトナム戦争を思わせる描写があり、戦争による貧困やその苦労といったリアルな要素が作品に深みを与えていた。単なる若返りのファンタジーではなく、戦争の爪痕を背負う世代のドラマとしても成立している点が印象的だった。
戦乱を生き抜いたからこそ、強いおばあちゃんであるバ・ダイを描けるのだろう。
また、ベトナム版は日本版と比べて登場人物の数が多く、人間関係がやや複雑である。このキャラクターは物語に必要だったのかと思う場面もあり、スポンサーや市場への配慮を感じる構成ではあった。もう少しコンパクトに整理されていれば、より引き締まった脚本になったかもしれない。
そうは言っても、各キャラクターの存在感は強く、演技もどこか大げさで、その過剰さが結果的に作品全体の明るいコメディ調を支えている。これはベトナム映画らしい表現の一つと受け止めるべきだろう。国ごとの文化や演出の違いが、リメイク作品としての魅力を生み出しているように感じた。
音楽が物語を支える|シリーズに共通する名曲たち
この『あやしい彼女』シリーズにおいて語らずにはいられない要素が、音楽であろう。日本版では男女二人組バンド「anderlust」が楽曲を担当し、作中で実際に多部未華子が歌った「帰り道」に私は心を撃ち抜かれた。彼らのCDを漁り(といっても4曲しかないが)、しばらく聴き入ったものだ。残念ながら、アーティストとして彼らは花開かなかった。
不思議で仕方がない。
ベトナム映画を紹介していたと思っていたら、気付いたら日本の楽曲を紹介していた。つまり、それだけ良曲だということだ。
なぜヒットしなかったあああああああ!!!!
とはいえ、本作『ベトナムの怪しい彼女』(Em Là Bà Nội Của Anh)も音楽面では決して引けを取らない。劇中で披露される楽曲はポップでノリが良く、ステージシーンの演出も非常に力が入っている(曲名はわからないけど)。日本版では多部未華子の歌声の美しさにウットリさせられたが、主演のミウ・レによる歌唱シーンも圧巻であり、映像・音楽・感情が一体化したクライマックスは見応え抜群である。しかしながら、昨今は音楽ライブでもリアルタイムで修正後の音声を流せる技術があるらしいから、実のところあてにはならない。それでも、作品全体の仕上がりを見れば、クライマックスの音楽シーンこそがこの映画の核心であると断言できる。まさに“歌で物語を語る映画”といってよい。
まぁどっちが良いかって言ったら日本版かな。
私は日本人だから、なにかしらのフィルターを通してしまっているかもしれないが、それでも日本に軍配が上がると信じたい。つまり、それだけ「anderlust」だということだ。
いずれにせよ、『あやしい彼女』シリーズは、家族愛・若返りというファンタジー要素に加え、音楽という強い感情装置を組み込んだ稀有な作品群である。国や文化を越えて楽しめる完成度を持ち、シリーズ全体を通して万人におすすめできる名作だ。
こんな人にオススメ!
『ベトナムの怪しい彼女』は、韓国映画のリメイクにとどまらず、国や文化によって「家族」や「青春」の捉え方がどう変化するかを描いた作品である。コメディのテンポと感動のバランスが絶妙で、シリーズを知らなくても十分に楽しめる。
- 心温まる家族ドラマが好きな人
- 音楽と青春が交差する作品に惹かれる人
- アジア映画のローカルな魅力を味わいたい人
『ベトナムの怪しい彼女』まとめ
『ベトナムの怪しい彼女』は、笑いと涙、そして音楽が見事に調和したエンタメ作品である。ベトナムという背景を活かし、戦争や世代間の断絶といった社会的テーマを盛り込みながらも、観終わったあとに残るのは「家族っていいな」という素朴な温かさだ。
シリーズを通して描かれる“若返り”というモチーフは、過去への後悔や未来への希望を映し出す鏡のようであり、本作も例外ではない。もしまだ日本版しか観ていないなら、ぜひこのベトナム版にも触れてみてほしい。違いの中に、共通する“優しさ”がきっと見えてくるはずだ。
映画『ベトナムの怪しい彼女(2015年)』の作品情報まとめ(監督・キャスト・配信情報など)
- 監督:ファン・ザー・ニャット・リン
- 出演:ミウ・レ, ミン・ドゥク, ドゥク・クエ, ゴー・キエン・フイ
- 公開年:2015年
- 上映時間:127分
- ジャンル:ファンタジー, コメディ, ドラマ