悲しくないのに泣ける。共感が止まらない家族映画|映画『秘密の丘』レビュー評価
悲しくないのに大号泣。少女が家族への思い・想いを正直に綴る映画。
ラスト30分は涙のナイアガラバスター。悲しいストーリーではないのに、共感が心を埋め尽くし、ジンジンと胸が締め付けられる。それなのに温かい。
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世の中、恋愛映画ばっかりあふれてると思いきや、家族をテーマに描いた作品って多いよね。
視聴者自身が「家族愛」に飢えているのかもしれない。
生徒会長を目指すミョンウンは、貧しい家庭を隠し、偽りの家族を語っていた。だが、転校生ヘジンのまっすぐな言葉に心を動かされる。友情が芽生える中、ミョンウンは勇気を出し、誰にも言えなかった本当の想いを作文に綴る――。
感動の押しつけゼロ。それでも泣ける韓国の家族映画
物語の舞台は韓国、比較的田舎のソンウォン市。川を挟んで双眼鏡で北朝鮮が見えるシーンから、比較的北の寒い地域。首都ソウルに近い(私調べ)。
前半中盤と、思春期直前の女の子・ミョンウン(ムン・スンア)の家族に対する思い(”想い”ではなく)を淡々と描き、後半から思いは想いに変わっていく。
後半からは涙なしでは観られない。悲しくもないのに涙腺はナイアガラ・ドロップキック。感動の押しつけは一切ないのに、なぜこんなに泣けるのか。トニカク共感しっぱなしで心がヤヴァイ。
思春期を迎える少女の体裁を気にする姿は、自身の記憶と重なっていく。
取り繕ってでも得たい承認と、偽らない強さを対比する感動作
韓国映画『秘密の丘』は、思春期を迎える少女の"家族への複雑な感情"と、「嘘」と「真実」の対比を繊細微小に描いた感動作。
小学5年生の少女ミョンウンは、だらしない父親と、塩辛店を営みながら必死に働く母親のことを「恥ずかしい」と感じている。貧しさや身なりを気にする余裕のない両親の姿を、周囲の友人に知られたくないミョンウンは、"理想の家族像"を作り上げて語り続ける。そのうえクラスの信頼を得るために学級委員に立候補し、選挙で当選を勝ち取る。
そのときの学級演説が実に痛快で、現代政治の矛盾を鋭く風刺しているのも見どころのひとつ。
公約を掲げ派手な選挙活動はするけれど、公約を守った当選者を見たことがありますか?――人気者になりたいだけで、役割自体には興味がない――
物語の転機は、転校生である双子の姉妹ヘジンとハヤンの登場。平和をテーマにした校内作文コンクールで、ミョンウンは南北統一という大きな題材で優秀賞を受賞するが、ヘジンとハヤンは「姉妹の小さな平和」というごくごく小さな、しかしリアルな作文で最優秀賞を受け取る。
ミョンウンは図書館での調査、北朝鮮を実際に見に行くなど、「共感を得るための努力」を重ねた。一方、ヘジンとハヤンは飾らない本当の言葉だけを綴っていた。
この「自分を取り繕うこと」と「真実を語ること」のコントラストこそが、本作『秘密の丘』の核心的なテーマの一つとなっている。
「恥ずかしい家族」から「大切な家族」へ。ミョンウンの心の変化
韓国映画『秘密の丘』は、本音と建て前という人間の本質をテーマに描いた作品だ。 この感情の揺れは、とくに日本人にとっては共感しやすいだろう。子どものころに感じた“恥ずかしさ”や“見栄”の記憶が、作品全体に神妙に重なってくる。
作中に登場するミョンウンの家庭は、実はそれほど貧しいわけではない。もちろん裕福でもないが、中流家庭のように描かれている。物語の冒頭ではカニを囲って殻を突っついている食卓のシーンがあるし、焼肉屋に肉を食べに行くシーンもある。家にはオルガン(のような楽器)も置かれている。つまり、物語で語られる「貧しさ」はあくまでミョンウン自身の主観なのだ。
小学生の「体裁」──トイレとシャーペンと、私の見栄
小学生の時、トイレで大をすることが恥ずかしかった経験はないだろうか。特に男性は。本来なら当然の生理現象なのに、周りの子ども達ははやし立てる空気がある。大人から見れば実にくだらないことで喜ぶのが子どもなのだが、子どもである当の本人はたまったものではない。私もそうだった。子どもからすれば、トイレで排便をするのは体裁が崩れる一大事だった。
ミョンウンには実に私は共感した。私の家庭も共働きで、中流家庭、むしろ今考えれば平均値よりも中央値よりも所得が高い家庭だったように思う。両親は30代前半で家を建てたし、共働きだからこそ外食が多かったし、中学高校にあがれば、毎日食費として2,000円程度貰っていた。「忙しいから自分で勝手に買って食え」というわけだ。
中高こそそうだったものの、小学生時代はそうはいかない。小遣いは貰えなかった。貧乏だからというわけではなく、そういう方針の家庭だっただけだ。友達がもっている1本300円のシャープペンが羨ましかった。ロケット鉛筆が羨ましかった。みんな持っているものを、自分が持っていないのが恥ずかしかった。自分ちは貧乏だと私は思っていた。
私の妹もそうだった。下手にお嬢様が通うような女子中・高校に受かったものだから、まわりのお嬢様と比較して、「うちがもっとお金持ちだったらいいのに」と口癖のように言っていた。やたらと比較してはオカンに叱られていた。実際にはそれほど裕福さに差はなかったように思う。
ミョンウンもまさに同じ。 家族を恥ずかしく思い、他人の目を気にして、自分を取り繕ってキラキラを装う――その姿は、私たちの子ども時代の投影でもある。もちろん、そうでなかった方々もいらっしゃるだろうが。
見栄という鎧を脱ぎ捨て、本当の「家族への想い」に気づく
物語が進むにつれ、ミョンウンは本当に大切なものに気づいていく。 他人の目を気にしていた彼女は、少しずつ家族を“想う”ようになる。 それまで身に纏っていた見栄という鎧を脱ぎ捨てるミョンウンの変化は、感動的だ。
『秘密の丘』は、そんな心の揺れと成長を、ゆっくりとそして深く描ききっている。
こんな人にオススメ!静かな余韻が、あなたの心にもきっと残る
本来の予定では執筆時点でAmazonプライム・ビデオ(アマプラ)で話題になっていた映画『教皇選挙』を観る予定だった。 ところが新着欄に韓国映画『秘密の丘』が並んでいて、しかもこっちも「選挙」がテーマらしいというじゃないか。
(↓『教皇選挙』もレビューしました。)
これは面白そうだと予定変更して観てみたところ……いい意味で完全に裏切られた。 感動系の映画ではあるけれど、いわゆる“お涙頂戴”ではない。
監督のイ・ジウン氏も、涙を誘うような演出を意図的に仕掛けているわけではないだろう。 だがそれでも、後半は涙が止まらない。悲しくないのに泣けてしまう――この感情がとにかくインパクト大なのだ。
何度でも言いたい。 悲しくないのに泣ける韓国映画を探しているなら、『秘密の丘』はその筆頭候補だ。
- 家族との関係にモヤモヤを抱いたことがある人
- 思春期の自分を思い出すような映画が好きな人
- 嘘や見栄を通して成長する主人公に共感したい人
- 泣ける映画じゃない「泣ける映画」を探している人
たぶん、誰しもが通ってきたであろう「恥ずかしい」と向き合い、それでも大切なものを見つけていくミョンウンの姿に、きっと何かを思い出すはず。
派手な演出や音楽に頼らず、本物の感情だけで泣けるこの作品。
心が少し疲れているときにこそ、観てほしい一本だ。
映画『秘密の丘(2022年)』の作品情報まとめ(監督・キャスト・配信情報など)
- 監督:イ・ジウン
- 出演:ムン・スンア
- 公開年:2023年
- ジャンル:ドラマ