ホラー?コメディ?ミステリー?詰め込み過ぎた要素が渋滞して観る人を選ぶ映画
映画『あの人が消えた』感想レビュー
日常のすぐそばで、人が“ふっと”消えてしまう――。 映画『あの人が消えた』(2024年9月20日公開/監督・脚本:水野格)は、静かな不安と違和感がじわじわと広がっていく“先読み不可能”のミステリードラマである。
主演は高橋文哉が務め、彼が演じる配達員・丸子は、失踪の噂が絶えないマンションを訪れるうちに、住人たちの不可思議な言動に巻き込まれていく。共演には北香那、坂井真紀、袴田吉彦、菊地凛子、中村倫也、染谷将太、田中圭らが顔をそろえ、それぞれの視点から“消える人々”をめぐる謎と人間模様が描かれていく。
派手な演出には頼らず、伏線と人物描写でじんわりとした緊張を積み上げる作りが序盤、特徴的には見える。観る者の先入観を揺さぶる仕掛けが随所に仕込まれている点は、評価はできるが――。

視聴後に、これほど「観るんじゃなかった」と思った映画は初めてだ。虚無感が凄い。
感想レビューを書くのが難しい映画はあるが、本作は別の意味で感想を書くのが難しい。くだらなすぎる。例えば、すごくツマラナイお笑いを見たときの、イラつきというか、ふざけんなっていう気持ちというか、「はぁ?」っていう感情?そういうのが整理できなくて、言語化が難しいのだ。
感想レビューなんて書きたくない、ツライ……。
とりあえず、思ったことを羅列することしか思いつかない。私には映画の感想レビューを書く上でのモットーがあって、「最後まで観た映画は書く、途中で観るのをやめた映画は書かない」と決めている。本作は、最後まで見てしまった。非常に後悔している。
最後まで観てしまった自分を呪いたい。
本作を視聴したきっかけは、Amazon Prime Videoで人気急上昇に上がってたからなんだけれども。視聴中、「それはないでしょ」っていう展開がままあって、最後まで行くのか行かないのか迷いはしたが、まぁ続きは気になる作りだったため、結局はエンディングまで止められなかった。
これはまさしく呪いだ。ラストをどう落とすのかが気になってしまった。それは正直に白状する。くだらなさの中にも、そういう「いまさら止められない」というコンコルド効果(埋没費用効果)を上手く利用された気分だ。
そこらへんは純粋に、悔しい。
とは言え、レビューは★5が一番多く、4、3、2と順に数が減っていく。多数は高評価な映画だ。それでも私は★2を付けた。つまり私はマイノリティなわけだが、ここは私のブログで、私は好きなように、私が感じたように映画『あの人が消えた』を評価する。異論はことごとく却下だ。
※本レビューはネタバレを含みます。
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『あの人が消えた』あらすじ
現実と虚構が入り混じるような出来事の連続に、丸子は次第に真実へと引き寄せられていく――。
映画『あの人が消えた』の感想:ホラーでもミステリーでもなく混乱だけが残る
映画『あの人が消えた』を観てまず私が感じたのは、「ジャンルの迷走」である。序盤からホラーかな?ミステリーかな?という導入で一瞬引き込まれはするが、その後の緊張は続かない。だらだらとした展開が続き、テンポが悪く、伏線を張り巡らせるためだけの時間に思えて仕方がなかった。それに付き合わされている感が強い。結局ホラーでもミステリーでもなかったし。
悪い意味で騙されたという印象が強い。
中盤以降は、「つまりはこういうことだった」というネタばらしを軸に進行していくが、シリアスだった空気が突然コメディ調に変化するため、混乱する。トーンの変化が急すぎて、頭が切り替わる前にストーリーが流れていく。観ていて理解が追いつかず、感情が置き去りになる。理解が追いつかないというのは話の内容がわからないというわけではなく、どういう態勢で視聴していけばいいのか困るということだ。
ありていに言えば、どう楽しんだらいいのかがわからない。
終盤になると、もはやジャンルが崩壊する。ホラーでもなく、コメディでもなく、ミステリーですらない「なんでもあり」の展開に突入する。緊張も余韻もなく、ただの混乱だけが残る。
全体的に構成が粗く、ホラーとしてもコメディとしてもミステリーとしても中途半端。作中で、「世の中には信じがたいことがあるんじゃないですか?」とか言う台詞があるか、本作の展開自体が信じがたかった。
エンドロールだけは良かったのだが、映画の方を真面目に作って欲しかった。
最終的な感想を一言で言えば、「なんだの映画、くだらねぇ」である。それでも★2をつけたのは、最後まで視聴したからだ。★1に該当する作品の場合は最後まで視聴せずに途中で観るのをやめてしまうため、レビューを付けることはない。つまり、レビューを付けられる作品としては、本作は最低ランクの作品である。
映画『あの人が消えた』の評価が分かれる理由:私は楽しめなかった
散々こき下ろしているが、映画『あの人が消えた』には高評価レビューを付ける人も少なくない。多くの視聴者が「斬新」「伏線が面白い」と絶賛する中で、単に私に柔軟性がないだけと言われればそれまでである。とはいえ、私の感想は私自身のものであり、「私は楽しめなかった」と言えばそれはそれでそれまでである。
本レビューでは、なぜ私が楽しめなかったのかを説明していこう。
トーンの切り替えが唐突すぎる:ホラーでもコメディでも中途半端
上述したとおり、最も大きな問題は作品全体のトーンが突然切り替わる点にある。序盤までシリアスな雰囲気でストーリーが進んでいたのに、途中からいきなりコメディ風の展開に変わる。
その突拍子のなさに付いていけなかった。
例えば、稲川淳二の怪談話を真剣に聞いていたのに、その態勢のまま休憩を挟まずお笑い芸人が登場してきてコントをし始めたら観客は面食らうだろう。「なぜこの流れで?」という疑問符が頭に並び、集中していた気持ちが一瞬で崩れる。
もちろん、いきなりコメディ展開になるそれなりの理由はあるのだろう。コメディにしておかないと「ネタばらし」の際にリアリティがなさ過ぎて嘘っぽくなる。本作の現実っぽさに関してはこの後に書くが、それでもシリアスからコメディへの変化は唐突過ぎた。なんとかワンクッション置けなかったものか。
しかも本作は、シリアス→コメディの切り替えだけでは終わらない。真実が明かされたと思ったら、今度は映画『ゴースト/ニューヨークの幻』のような“あたたかい心霊ドラマ風”の展開に転じるのだ。
イイハナシカナー?
主人公を殺す必要はなかったよね?視聴者に衝撃を与えたい意図はわかるが、そうするならば、それ相応の“思わせぶりな仕掛け”や“余韻”が必要だ。幽体になって物を動かせるって、もうそれなんでもありになっちゃうじゃん。トリックでも何でもないじゃん。
結果として、本作はジャンルが渋滞している。いろいろ詰め込みすぎて、焦点が定まらない。
最初っからホラーにしとけば良かったのに。映画『見える子ちゃん』を見習え。
リアリティの欠如:主人公の行動も警察の描写も不自然
急なトーン変化以外にも、本作はリアリティの欠如が多くみられる点が問題である。主人公・丸子(高橋文哉)が突っ走りすぎており、共感しにくい。自分が推している作家の命が危ないと勝手に思い込み(まぁ実際そうだったんだけど)、住人に聞き込みをしたり、強引に名前を聞いたり、警察に駆けこんだり、不法侵入までしてしまう。
こんな奴いねぇよ……。
しかも、職務中に得た情報を他人に漏らしたりして、コンプライアンス的にも問題行動が多い。
コメディパートでは、アパートの住人の小宮千尋(北香那)と島崎健吾(染谷将太)が、実はテロリストを追う公安の刑事という設定で話が進む。テロリスト?日本で?
まぁ安倍さんの件もあったけど……。
確かに現実でも物騒な事件は時にして起こるが、仮にそうであっても、一般人に情報を明かすのは不自然である。さらに、刑事であろうと盗聴や不法侵入は明確に違法である。
「容疑者がいるかもしれない」という推測や可能性の段階では、警察は令状なしに他人の住居へ侵入したり、盗聴したりすることはできない。
日本の法律(憲法第35条および刑事訴訟法)では、住居・通信の自由は非常に強く保護されており、令状主義が原則である。つまり、以下のように厳格な条件が課されている。
■ 住居侵入(捜索・差押え)
- 「犯罪が実際に起きている」「特定の証拠がその場所にある」など、具体的な根拠がある場合に限り、裁判官が捜索差押許可状(令状)を発行できる。
- 「容疑者がいるかもしれない」という曖昧な段階では、令状は発行されない。
- 令状がないまま侵入すれば、それは不法侵入(刑法130条)にあたる可能性がある。
■ 盗聴(通信傍受)
- 通信傍受法に基づき、特定の重大犯罪(殺人・麻薬・組織犯罪など)に限定され、かつ裁判官の傍受令状が必要。
- 「怪しいと思うから」という理由だけでは許可されない。
- 令状なしの盗聴は違法行為であり、警察自身が刑事罰や懲戒処分を受けるおそれがある。
― AI調べ ―
それにもかかわらず、本作では刑事たちが平然と盗聴器を仕掛け、不法侵入を繰り返す。まぁ、結果それは「すべてウソ」であったのだが、作り話でももっとリアリティを持たせた方が良かった。そうすれば、私に「してやられた」と思わせることができたかもしれない。
また、主人公・丸子が通報した際の警察官の職務怠慢によって、彼が殺されるという展開も説得力を欠く。
なぜ映画の中の警察官は、皆すべからく無能なのか……。
コメディだからといって、ご都合主義を連発してよいわけではない。リアリティの部分、その一線を越えられなかった中途半端さが、本作の限界を決定づけている。
フェアでないトリックがすべてを壊す
私は映画『あの人が消えた』を視聴した後、非常にモヤモヤした気持ちになった。なんだかバカにされているようでもある。「ふざけるな!」という印象も強い。
本作はおそらく、二転三転する意外性のある展開――いわゆる反転劇を楽しませることを目的として作られたのだろう。だが、私は「してやられた」とは思わなかった。
まぁ悪い意味で「してやられた…」とは思ったが。
物語のラストではタイトル『あの人が消えた』の意味が回収されるのだが、それでも私は感心するどころか「くだらない」としか思えなかった。
なぜそう感じたのか。その理由は、本作がフェアでないからである。
フェアでない仕掛けは“裏切り”でしかない
たとえば、こんな問題を出されたことはないだろうか。「1+1=」?これに対して「2」と答えると、「正解は田んぼの田でしたー笑」みたいなやつ。
実に頭が悪い。
まずは「なぞなぞです」と前置きをすべきである。算数の問題に見せかけておいて実はなぞなぞでした、というのはフェアではない。
本作にもそれと同じ不誠実さがある。
予告編でもはっきり「ミステリー」と明言し、演出でも謎解きを楽しむような雰囲気を装っておきながら、いざ蓋を開けてみれば論理的整合性を放棄した展開と、最後は幽霊になって何でもありというオチ。せめて「コメディ」の一言は銘打っておくべきであった。言うなれば、内容が薄いのに釣りタイトルでPVを稼ぐクソニュースサイトである。私が「騙された」と感じるのも当然だ。
“意外性”と“理不尽”は違う:観客を置き去りにした演出
“意外な展開”と“理不尽な展開”は、似て非なるものである。
本作は、その線引きを見誤っている。視聴者が推理や想像を重ねてたどり着ける「意外性」ではなく、作り手の都合で捻じ曲げた「理不尽さ」が残った。
そこに説得力がない以上、「驚き」ではなく「置き去り」が生まれるだけだ。
映画『あの人が消えた』は、構成の粗さ、トーンの不一致、リアリティの欠如に加え、”視聴者に対してフェアであること”を軽視してしまっている。結果として、挑戦的なミステリーでもなく、笑えるコメディでもなく、どっちつかずの中途半端な作品となってしまった。少なくとも、私にとっては。
私にはこの映画の魅力が見出せなかった。 ジャンルを絞り、テーマを明確にして再構築すれば、同じ素材でももっと良い作品になったのではないか。
そう思うからこそ、余計に残念でならない。
こんな人にオススメ!
映画『あの人が消えた』は、一般的なミステリー映画やホラー映画とは一線を画している。悪い意味で。というか、ミステリーでもホラーでもコメディでもない。緻密なストーリーを求める人には不向きだが、トンデモ展開や突拍子のない物語を楽しみたい人にはある意味“当たり”かもしれない。
- 予想外の展開をあえて楽しみたい人
- カオスなストーリー構成が好きな人
- 突っ込みどころ満載の映画をネタとして観たい人
- 私のように「理屈」や「論理」を重視しない人
ある種のカルト的な笑いを感じたい人にとっては、忘れがたい一本になる可能性もある。
映画『あの人が消えた』の総評:まとまりのない混沌、しかし印象には残る
『あの人が消えた』は、物語としての完成度は低いものの、「何だったんだこれは」という強烈な印象は残す。ストーリーの整合性や論理展開を求める人には不満しか残らないだろうが、むしろその“理不尽さ”を楽しめるかどうかが、この映画を評価する分かれ道である。
結果として、「名作」とは言い難いが、「一度観たら忘れられない映画」であることは確かだ。モヤモヤと苛立ちが同時に残る、珍しいタイプの邦画として記憶に根付いてしまうだろう。
映画『あの人が消えた(2024年)』の作品情報まとめ(監督・キャスト・配信情報など)
- 監督:水野格
- 出演:高橋文哉, 北 香那, 坂井真紀, 袴田吉彦, 菊地凛子, 染谷将太, 田中 圭, 中村倫也
- 公開年:2024年
- 上映時間:103分
- ジャンル: