のんびり映画帳

映画レビューブログ「のんびり映画帳」。B級映画、配信作品、名作から地雷まで本音レビュー。感想だけでなく、独自の意見や考察を交えます。できるだけネタバレは控えています。

ホーム feedly お問い合せ PrivacyPolicy

映画『青くて痛くて脆い』感想レビュー|モアイが象徴する孤独と理想の落差

2020年8月28日に全国東宝系で公開された『青くて痛くて脆い』は、住野よるの同名青春サスペンス小説を実写映画化した作品である。
吉沢亮と杉咲花が大学生を演じ、秘密結社サークル「モアイ」の変貌と復讐を描く青春劇。
監督は狩山俊輔、原作は住野よる、主題歌はBLUE ENCOUNTが担当している。

🗿拗らせた陰キャ大学生の復讐劇

映画『青くて痛くて脆い』感想レビュー|吉沢亮主演の青春群像劇

大学のキャンパスライフを舞台にした青春映画は数多いが、映画『青くて痛くて脆い』はその中でも特別に異彩を放つ作品である。理想を追い求めながらも現実に押し潰されていく若者の姿を、鮮烈でありながら苦い余韻を残すタッチで描き出している。青春の眩しさと痛みが同居するこの物語は、視聴者に「理想の青春」とは何なのかを見せつけてくる。

エンドロールでかの国宝吉沢亮の名前が出てきたときは驚嘆した。「まさか彼だったのか」。先日、実写化映画『ババンババンバンバンパイア』を視聴ばかりだが、まったく気が付かなかった。そもそも私は視聴前に誰が出演しているとかあまり確認しない質だが、公開年が違うとはいえ、役柄によって本当にイメージが変わるものである。俳優の持つ変幻自在な表現力を、実感させられる瞬間であった。

www.ikakimchi.biz

本作で吉沢亮が演じるのは、陰キャを拗らせた大学生・田端楓である。人との距離を取り、それでも居場所を探し求めながらも、空しく過ぎ去っていった大学生活の4年間をとある復讐で取り戻そうとする。孤独と理想の狭間で揺れる楓の姿は、視聴者に強烈な共感と痛みを残す。果たして、彼の企みは成功するのか。

『青くて痛くて脆い』は、タイトルが示す通り未熟さと脆さ、そして青春の痛みを描き出した作品である。視聴者によってそれぞれに異なる解釈を生み出しながら、かつての私たち自身の青春とも重なり合い、やがて儚く散っていく。吉沢亮の繊細な演技とともに、本作は青春映画の中でも特に心に残る一本になるだろう。

▶ 読みたいところだけチェック

 

『青くて痛くて脆い』あらすじ

大学に入学した田端楓は、人と深く関わることを避け、静かに過ごしていた。そんな彼の前に現れたのが、強烈な個性と理想を掲げる秋好寿乃である。彼女は「世界を変える」という大きな夢を語り、仲間を集めて秘密結社サークル「モアイ」を作り上げる。最初は巻き込まれるように参加した楓だったが、寿乃の真っ直ぐさに触れるうち、彼女の存在がかけがえのないものになっていく。
しかし、時が経つにつれてサークルの在り方は変質し、理想を語っていたはずの場は現実的で打算的な活動にすり替わっていく。やがて寿乃は姿を消し、残された楓の心には空虚さと裏切られた思いが残る。大切なものを奪われた楓は、サークルを壊すことで彼女の幻影を取り戻そうとする――。

青春×ミステリーの巧妙な融合

一見すると典型的な青春ドラマに見えるが、ミステリー要素を色濃く持つ映画『青くて痛くて脆い』。ストーリーの鍵を握るヒロイン秋好寿乃(杉咲花)の突飛で鮮烈な人物像が視聴者を一気に惹き込み、序盤からのスピード感ある展開で没入感を高めていく。

秘密結社サークル「モアイ」の実態を暴いていく工程は、まさにサスペンス映画並みのスリルある緊張感を生み出しながらも、それでいて単なる推理劇ではなく、青春の青さや青春の痛み、そして人間関係の脆さというものを映し出し、視聴者に淡く切ないメランコリックな感情を覚えさせる。

あの叙述トリックはズルイ!あらすじから身構えて視聴していたのだが、全く気が付かなかった。してやられる、あっぱれのトリックだった。

その解き明かしから、さらに主人公・田端楓は復讐心を燃やしていく。

ストーリー後半では「結局は恋愛映画なのか?」と思わせる部分も少なからずあるが、しかしその言葉だけでは片付けられないような繊細微妙で複雑な心情の描写は、「君の膵臓をたべたい」でも知られる原作者住野よるの真骨頂と言ったところだろか。

兎にも角にも、ストーリー構成は緻密かつドラマチックで、視聴開始直後から物語の渦へと引き込まれる。演出もまた大胆かつ精妙に交錯し、その対比で緊張と感傷的な静けさが交互に織りなすことで、よりナイーブに登場人物の心を浮かび上がらせている。

まさに、青春映画とミステリー映画が融合した意欲作と言えるだろう。

 

「なりたい本当の自分」とは何か――映画が突きつける問い

映画『青くて痛くて脆い』のテーマは、一貫して「なりたい本当の自分」である。これは思春期にありがちな、大抵の人が抱える悩みであり、大人へと成熟した後でも時折に顔をだす人間の普遍的な課題だ。主人公・田端楓はサークル「モアイ」を壊すことを目標にして、なりたかった自分自身の理想像との折り合いをつけようとするのだが、結局にそれは陰キャの拗らせによるものだった。楓は秘密結社サークル「モアイ」の創設者でありながらも、切り捨てられたと感じてサークルを去り、そしてそれは彼の孤独を象徴するものでもある。

その姿に共感する人も多いのではないだろうか。たとえば昔から応援していた無名のミュージシャンが、テレビ出演やSNSをきっかけに爆発的に人気を得たとき、嬉しさと同時に距離を感じ、嫉妬を覚えるような、そんな感覚に似ている。

作中でも同じように、楓の手を離れた「モアイ」は数年をかけて大きな組織へと変貌していた。楓はモアイで「なれるはずだった自分」と「今の自分」とを重ね合わせ、嫉妬に燃える。だがしかし、本当に「モアイ」での理想の自分は果たして本当の自分であったのか。アイデンティティの揺らぎと向き合うその姿は、青春映画でありながら人間ドラマとしても強い説得力を持っている。

.青春人間ドラマはコチラ.

www.ikakimchi.biz

”if”を重ねても、答えは見つからないものだ。しかしその葛藤こそが、『青くて痛くて脆い』をただの恋愛映画やサスペンスに留めない大きな魅力なのである。

 

『青くて痛くて脆い』登場するモアイを考察

青春映画としての側面だけでなく、映画『青くて痛くて脆い』は独自のシンボルを巧みにストーリーに組み込んでいる。それがサークル名にもなっている「モアイ」だ。「モアイ」は単なる装飾やユーモア的マスコットではなく、ストーリー全体を貫く大きな意味を持った存在である。

それでは、どうして「モアイ」なのか。そして主人公・田端楓との関係性は何なのであろうか――。

なぜ『青くて痛くて脆い』にモアイが登場するのか

映画『青くて痛くて脆い』で印象的に登場するのが、サークル「モアイ」のシンボルとして掲げられるモアイ像である。ヒロイン秋好寿乃は世界平和を本気で目標にし、楓と共に秘密結社サークル「モアイ」を立ち上げるのだが、作中ではモアイをシンボルとして選ぶ理由は語られない。「なぜ世界平和を掲げる活動にモアイなのか?」その疑問を考えていこう。

夕焼けの空に立つモアイ像

『AIによるモアイ』

モアイは古代から孤島イースターに並び立ち、謎と神秘とまとった存在だ。その圧倒的な大きさや不動さには「理想の象徴」「揺るがない信念」といったイメージが重なったのではないか。秋好寿乃が目指した「争い合う世界を変える」という夢も、現実的に考えれば途方もないものだ。今だって世界各地で争いは起こっている。その秋好寿乃の非現実的な夢を象徴するものとして、モアイはまぁそれなりに適していると考えられる。

しかしながらストーリーが進むにつれて、モアイは理想の象徴であると同時に「形だけが残った空虚な記号」としての意味も帯びていく。掲げられた理想はやがて姿を変えていき、実態を失っていく。巨大な石像がただ立ち尽くしているように、理想もまた形骸化し、ただの飾りに過ぎなくなってしまうのだ。

モアイは単なるオブジェではなく、映画では理想と現実の落差を映す映画的モチーフとして機能しているように私は感じた。

孤立する田端楓とモアイの重なり

本作の主人公である田端楓は、もともとは人との距離を置き、大学生活を「ひとり」で過ごすことを選んでいた人間である。秋好寿乃との出会いによって一時的には仲間を得るが、やがてサークルから切り捨てられたと感じ、自ら再び孤島の立場に追い込まれる。

ここで思いだされるのが、サークルの象徴であるモアイ像である。モアイは太平洋にあるイースター島に点在する巨像で、どれも孤立して立ち並んでいる。仲間と肩を並べているように見えても、それぞれは一体ごとに大地へと根を下ろし、動くことも互いに寄り添うこともできない存在だ。

楓の姿はまさにモアイそのものだろう。仲間とともにいるように見えながらも、根本的には他者と交わらず孤独を抱え続ける。その孤独は秋好寿乃との出会いによって一度は揺らいでしまうが、理想が崩れ去った後に再び取り残される姿は、動かぬ石像のように痛々しく映る。

モアイは理想の象徴であると同時に、楓自身の孤立や拗らせた陰キャ的な生き方を映し出す鏡でもあったのではないだろうかと、私は考察する。

 

こんな人にオススメ!

映画『青くて痛くて脆い』は、単なる青春ミステリー映画にとどまらず、理想と現実のギャップや孤独の痛みを鋭く描き出した作品である。キャストの演技とストーリーの緊張感が合わさり、視聴者の心に深く刺さる映画だろう。

  • 吉沢亮・杉咲花といった俳優の演技を堪能したい人
  • 『君の膵臓をたべたい』に代表される住野よる作品が好きな人
  • 青春映画の甘酸っぱさより、痛みや孤独に焦点を当てた作品を求めている人
  • ミステリーやサスペンス的な緊張感を味わいたい人

 


まとめ|『青くて痛くて脆い』が残す余韻

『青くて痛くて脆い』は、陰キャを拗らせた大学生・田端楓の復讐劇を通して、誰しもが一度は抱える「本当の自分とは何か」という問いを突きつけてくる青春映画である。モアイという象徴的なモチーフを軸に、理想と現実の落差や孤立する若者の姿を描き出し、観る者の心に深い余韻を残す。

華やかさだけではない青春の側面を描いた本作は、甘くも苦い体験として記憶に刻まれるだろう。もしあなたが、自分の過去や青春時代を少しでも思い返したいと感じるなら、『青くて痛くて脆い』はきっと心に刺さる一本になる。

🎬 『青くて痛くて脆い』はAmazonプライムで配信中

 

映画『青くて痛くて脆い(2020年)』の作品情報まとめ(監督・キャスト・配信情報など)

  • 監督:狩山俊輔
  • 出演:吉沢亮, 杉咲花, 岡山天音, 松本穂香, 柄本佑
  • 公開年:2020年
  • 上映時間:118分
  • ジャンル:青春, ロマンス, サスペンス, ミステリー

当サイトはアマゾンアソシエイト・プログラムの参加者です。
適格販売により収入を得ています。

© 2023– のんびり映画帳