アクションの多様性が炸裂!シリーズの中継ぎとは思えぬ完成度
映画『ジョン・ウィック:パラベラム』感想レビュー
前作のラストからそのまま続く本作『ジョン・ウィック:パラベラム』では、掟を破ったジョン・ウィック(キアヌ・リーブス)が裏社会から追放され、一瞬たりとも気を抜けない逃亡劇へ突入する。降りしきる雨の中、追放処分の発効まで残されたわずかな時間だけが彼に与えられた自由であり、生き延びるための準備を急ぐ姿が冒頭から緊張感を極限まで高めている。
ジョンを陰から見守るコンチネンタルの支配人ウィンストン(イアン・マクシェーン)、その傍らに立つコンシェルジュのシャロン(ランス・レディック)など、シリーズでお馴染みの存在も事態の深刻さを察し、ただならぬ空気が漂う。そしてジョンは旧知の恩人「ディレクター」(アンジェリカ・ヒューストン)を頼りに動き出すが、その行動こそが“世界中の刺客との全面戦争”の号砲である。
『ジョン・ウィック』シリーズは本作で早くも三作目。大作の長編シリーズものでも、観始めたら「あっ」と言う間の出来事であった。どの作品にも“シリーズ疲れ”が一切ないという点が際立っている。それくらいに『ジョン・ウィック』が面白いということだが、シリーズ全体を通して一定の水準を満たしている映画というものは、ハリウッド映画と言えど多くはないだろう。そういう意味でも、本シリーズはかなりの成功、いや、偉業を成し遂げていると言っても過言ではない。
もうあと一作品しかない寂しさ。
これまで私が視聴してきたジョンも、残された本編はあと一作。寂しさが否めない。スピンオフ作品『バレリーナ:The World of John Wick』を除けば、いよいよ終盤に差し掛かっている。
制作には数ヶ月から数年という膨大な時間が費やされるにもかかわらず、鑑賞すればわずか2時間ほどで幕を閉じるのだ。その儚さはスポーツ観戦のようであり、積み重ねた努力が一瞬で結果へ変わる感覚にも似ている。
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けれど、短く感じるその一瞬こそが、映画体験をより濃密にしてくれる要素であり、シリーズを通しての魅力にもなっている。
『ジョン・ウィック:パラベラム』――いよいよ開幕である。
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『ジョン・ウィック:パラベラム』あらすじ
追跡者たちは次々と送り込まれ、街全体が彼の命を狙う戦場と化す。ジョンは自らの存在意義と逃れられない掟の双方を背負いながら、絶え間ない戦いのただ中で、最後の突破口を探し求めることになる。
冒頭から全開フルスロットルのアクション描写と「パラベラム」の魅力
映画『ジョン・ウィック:パラベラム』は、シリーズの伝統とも言える“冒頭から全力で畳みかけるアクション”を今回も惜しみなく提示してくる。これはジョン・ウィックという作品体系における象徴的な演出であり、アクション映画としての様式美そのものでもある。
むしろなくては始まらない。
特に印象的で面白かった所は、キアヌ・リーヴス演じるジョンが、追跡者に囲まれながらもカチャカチャと組み上げていくシーンだ。シリンダーに合わない弾丸サイズに苦戦しつつ、複数の銃を分解し、パーツを“プラモデルのように”組み合わせていく工程は、観客にフロー体験をもたらすほどの没入感を生む。その進捗快はなかなかのものだ。完成した瞬間に訪れるコンプリート感と、それが“命を狙われながら行われている”という極限状況が重なり、シリーズでも有数の緊張と快感が同時に押し寄せる名場面となっている。
ガンダム組み立てたい。
ストーリーに関しては、流石に少々の複雑さははらんでくる。今作のジョンはヒットマンとして標的を追う側ではなく、世界中から追われる立場となり、ニューヨークの街を中心に、複数の場所を駆け巡る。中盤ではモロッコへ飛ぶ展開もあり、舞台の転調が多い一方で、どのシーンにも緊迫したアクションが挿入され、テンポが落ちる瞬間がほぼ存在しない。
いつだってバトルに次ぐバトル。
本作は単体で完結する物語というよりは、シリーズのスケールをさらに拡張するための“序章”としての役割を強く帯びている。コレについての詳細は後述するが、物語全体の大きな唸りの一部といった位置付けだ。
ただし、序章的であるからといって手を抜くどころか、世界トップレベルのアクション演出を余すことなく詰め込んでくる点には舌を巻く。
圧巻の一言。
また、今作『パラベラム』で登場する武器も多彩である。ナイフを投げたり、斧をアイスラッガーにしたり、さらには車やバイクまでもが凶器として機能し、果てにはワンちゃんまで戦闘に参加する。“ジョン・ウィックらしい武器のバリエーション”がより広がり、アクション好きでも見飽きない密度に仕上がっているのだ。
みんな丸太は持ったな!!行くぞォ!!
シリーズ前二作で築かれた期待値を全く裏切らず、むしろさらなる高みに到達しているのが『ジョン・ウィック:パラベラム』である。アクション映画としての完成度、シリーズの進化、世界観の深化。そのいずれもが確かな手応えを持って積み重ねられた一作となっている。
シリーズ随一のバリエーションと追跡劇が生む圧巻のアクション
本作の最大の魅力は、やはりアクションである。しかしその内容は、これまでのガンアクションと体術を組み合わせた“ガンフー”だけに留まらない。『ジョン・ウィック:パラベラム』では、これまで以上に幅広い戦闘スタイルが盛り込まれており、シリーズの枠をさらに押し広げている。
ナイフが飛び交い、斧が敵に突き刺さり、馬が容赦なく敵を蹴り上げる。さらにはバイク同士が並走しながら刀で斬り合うという、アクション映画でも滅多に観られないシーンまで登場する。いずれも“ネタの新鮮さ”が保たれており、よりどりみどりさつきみどりのアクションパートだった。毎作必ず新しい見せ場を提示してくるジョン・ウィックシリーズの真骨頂と言えるだろう。
そのアイデア量は驚異的であり、アクション演出へのこだわりの深さがストレートに伝わってきた。
ストーリー面でも、今回は大きな転換がある。今回は、ジョンは狙う立場ではなく、鼻から世界中の刺客に狙われる立場となり、逃走しながら敵を倒していく。逃げながらも一切怯まず、次々と襲いかかる敵を薙ぎ倒す姿は、まさにジョナサン、すなわち『ジョン・ウィック』そのものであった。
さらに今作では、裏社会を束ねる“主席(ハイ・テーブル)”が本格的にジョンの抹殺に動き出す。これはシリーズの世界観が一段階深まる要素であり、物語に大きな緊張感を与えている。逃走劇と反撃の応酬、誰を信じ、誰に裏切られるのかという駆け引きが、本作の大きな特色である。
『ジョン・ウィック:パラベラム』は“次作への序章”に過ぎない
映画『ジョン・ウィック:パラベラム』を視聴し終えて私が覚えた感想は、「その終わり方はズルい!本気で次作『コンセクエンス』と二部作として成立させるつもりだな」というものであった。
そう、本作『パラベラム』は前作から続く物語の延長であり、同時に次作への橋渡しとして作られた作品にほかならない。
タイトルが示すテーマ──“para bellum=戦争の準備”とは何か
そもそもタイトルの『パラベラム:para bellum』の意味はなんなのか。「パラベラム(para bellum)」とは、ラテン語で「戦争の準備」を意味する言葉である。今回ジョンは、シリーズのテーマ軸である「復讐」をしない。というより、むしろ復讐どころか追われる立場である。
日本のバンド「9mm Parabellum Bullet」を思い出した。まだ活動してんのかなぁ。
今作『パラベラム』。バトルこそしつつも、戦争と呼べるまでには行きつかない。戦争しないのになぜ、サブタイトルがパラベラム(戦争の準備)なのか。私が上で言った、「その終わり方はずるい!次のコンエクセンスと二つでひとつの作品にするつもりだ!」というのがその答えだ。単純に、本作は次作で描かれるだろう、裏社会を束ねる”主席”との全面戦争のための準備編だからである。
──今度こそ、本当に戦争が始まる。
つまり今回の『ジョン・ウィック:パラベラム』というタイトルは、「あくまで本作は、次作の準備段階に過ぎないんですよ、本編はこれからなんですよ」という宣言が込められている。制作陣の自信が透けて見えるサブタイトル選びである。
スゲェ自信。
もしこの構成でコケたらどうするつもりなのか、と余計な心配さえ浮かぶ。相当の自信がなければ、制作に1、2年かけた映画に、サブタイトルで『パラベラム』なんて付けないだろう。しかしそれでもこの構図を採用したということは、それだけ次作への手応えと確信があったのだろう。
期待が、高まる……!!!
こんな人にオススメ!
『ジョン・ウィック:パラベラム』は、アクション映画としての密度はもちろん極めて高く、シリーズのターニングポイントとなる重要策である(前作でも書いたようなきがする)。特に以下のような人には強く刺さる作品だろう。
- 「ジョン・ウィック」シリーズの進化したアクションを体感したい人
- 前作から続く物語の決着を待ち続けていた人
- 緊張感とスピード感のある“逃走劇”が好きな人
本作は“序章”であり、新章への扉である
映画『ジョン・ウィック:パラベラム』は、単体でも充分に刺激的で満足度の高いアクション映画である。しかし本作の真価は、次作『ジョン・ウィック:コンセクエンス』へとつながる物語の大きな転換点に位置付けられている点にあるのだ。
ジョンの物語は、パラベラムでは終わらない。むしろ、ここからが本当の始まりである。『ジョン・ウィック』シリーズを追ってきた人ほど、この“戦争の準備”の段階に込められた熱量を確実に受け取るはずだ。
ぜひ、次作への期待と共に本作を味わってほしい。本編は、これからである。
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映画『ジョン・ウィック:パラベラム(2019年)』の作品情報まとめ(監督・キャスト・配信情報など)
- 監督:チャド・スタエルスキ
- 出演:キアヌ・リーブス, ハル・ベリー, ローレンス・フィッシュバーン, イアン・マクシェーン, マーク・ダカスコス, エイジア・ケイト・ディロン, ランス・レディック, アンジェリカ・ヒューストン, ジェローム・フリン, サイード・タグマウイ
- 公開年:2019年
- 上映時間:130分
- ジャンル:アクション, ドラマ