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映画『リアリティ(2023年)』感想|静寂が語る真実。シドニー・スウィーニーが体現する“現実”の緊張

一語一語に緊張が走るの心理ドラマ

映画『リアリティ』感想レビュー|実話をもとにしたFBI取り調べの82分

密室の静けさほど、真実を暴く空間はない。映画『リアリティ』は、ひとつの部屋と数人の会話だけで緊張感を漂わせる異色の実録劇である。主人公リアリティ・ウィナー(シドニー・スウィーニー)は、国家機密情報漏洩という重い罪に問われた若い女性であり、本作はその取り調べの一部始終を、実際のFBI音声記録をもとに再現している。

派手な演出や編集は一切なく、あるのは人間の声、呼吸、そして沈黙だけ。それにもかかわらず、画面からは圧倒的な緊張と不安が滲み出る。観る者は次第に、彼女が「何をしたのか」ではなく、「なぜそうせざるを得なかったのか」という問いへ引きずり込まれていく。

線画で書かれた警察官から取り調べを受ける女性

取り調べ

淡々としたノンフィクションの、ワンシーン・シチュエーション映画。82分の上映時間ので繰り広げられるのは、ほとんどがリアリティ・ウィナーとFBI捜査官二名の会話劇だけ。それだけにリアルで、生々しい緊張が続く。皮肉にも「リアリティ・ウィナー」という名前が、まさに“Reality=現実”を映し出している。もちろん彼女は実在の人物であり、本作は実際に起こった事件を忠実に再現した作品である。事件についてはWikipediaにも記載があるほどだ。

映画『リアリティ』は、我々に「真実のリアル」を突きつけてくる、息を詰めるような本物志向の心理ドラマだ。

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『リアリティ』あらすじ

2017年、アメリカ。25歳の元軍人リアリティ・ウィナーは、自宅に戻ったところをFBI捜査官に呼び止められる。彼らは穏やかな態度を装いながらも、リアリティの過去の行動についてじわじわと追及を始める。最初は雑談のような空気が漂うが、やがて尋問は核心へと踏み込んでいく。 映画は、実際のFBI尋問記録をもとに構成され、登場人物の言葉や沈黙までもが忠実に再現されている。ほとんどが一室の会話劇でありながら、そこには息を呑む緊張と、現代社会の監視や告発をめぐる不安が凝縮されている。真実を語ることの代償と、国家の中で個人が置かれる立場を鋭く浮かび上がらせる作品である。

静寂の中に潜む緊張と心理戦

本作のストーリーは、終始落ち着いた雰囲気でリズムが早くなったり遅くなったりはせず、ありのままを映す。感情が大きく揺れることはない。大きな波やうねりもない。しかしながら単調というわけではなく、単なる会話を繰り返しているだけなのに、なぜだろうか不思議と緊張感が漂い、張り詰めた空気が場を支配していく。視聴者は、息を潜めるようにその沈黙を見つめることになる。

その緊張感は、まるで獲物を狙う肉食獣が、虎視眈々と静かに距離を詰めていくかのようである。それでも暴力的な描写や脅威を感じる場面はない。リアリティ・ウィナーと二人のFBI捜査官は、ただ言葉を交わしているだけだ。それだけなのに、見えない圧力が常に漂っている。

本作は実際の取り調べ音声をもとに構成されているため、公開できない単語や機密部分にはピー音が入り、時折映し出される文書には黒く塗りつぶされた箇所がある。それはもちろん演出ではなく、本物の記録だからこそ隠されている情報であり、その“隠蔽”こそが映画のリアリティを際立たせている。

BGMはない。リアリティと捜査官の声以外は、証拠を探しているかのような別の部屋からの音や、写真を撮るシャッター音、外のいる犬の鳴き声、ドアを開け閉めする音、現実の空間で本当に起こっている音だけである。徹底的に「演出」を排し、現実の質感をそのまま表現しているようだ。

劇的な展開や派手な演出が存在するわけではないので、人によっては地味で単調に見え、つまらないと感じるかもしれない。しかし本作が描くのは、静かな会話の中で密かに揺れ動く人間の心理である。その微細な感情の揺らぎは、沈黙の中にこそ強く浮かび上がる。表情や動作には現れなくとも、注意深く観察すれば、リアリティが抱える緊張と心理的圧迫を確かに感じ取ることができる。

映画『リアリティ』は、直接的なアクションを排し、動揺・駆け引き・心理操作といった“目に見えない戦い”を描く、緻密な心理サスペンスである。

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演技が生み出すリアルな緊張感

実際にあった尋問の様子を、音声から映像として再構成した本作『リアリティ』。大きな展開はなく、会話の中から浮かび上がる真実と、それを隠そうとする、または暴こうとする心理戦が見所である映画だが、つまり役者の演技がモノを言うのだ。ここではその「演技のリアリティ」に焦点を当てたい。

リアリティ・ウィナーを支える落ち着きの演技

私は健全な優良市民だが、それでも深夜にパトカーとすれ違ったり、警察官を見たりすると緊張してしまう。やはり権力には平伏してしまう心理が働くのだろう。

それでも本作の主人公リアリティ・ウィナーは、買い物から帰ってきて直後FBI捜査官に話しかけられても、驚くべきほどに落ち着いていた。元軍人ということもあったのかもしれないが、FBIなんて警察の上位互換、国家連邦捜査官である二人を相手に、まったく怖じないというのはスゴイ。あの静けさは異様なほどである。たぶん、実際に記録された音声から復元を試みた演技であるのだろうが、その音声からして落ち着き払っていたのだろう。私なら、もう警察というだけで何も悪いことをしてなくてもドギマギしてしまう。観ている方は彼女が落ち着きすぎていて、なんだか逆に嘘っぽく感じるかもしれないが、しかしその落ち着きこそが、彼女の内面の緊張と恐れをより際立たせている。

実際、彼女には後ろめたいことがあり、それを捜査官に悟られないようにごくごく自然に振る舞おうとしていたのかもしれない。リアリティ・ウィナーは“リアリティ”そのものであり、それを演じたシドニー・スウィーニーもまた見事に体現していた。静かな声の奥に潜む不安や動揺、わずかな視線の揺れ。そのすべてが、リアルな人間の反応として生々しく映る。またそれが、実に味があり、リアリティをリアリティたらしめる役割を果たしていたのだ。

FBI捜査官たちの冷静な追い込み

平静を保とうとする主人公リアリティだが、それを暴く捜査官を演じるのがジョシュ・ハミルトンマーチャント・デイヴィスである。

日本のドキュメンタリー「なんとかかんとか警察24時」などや、刑事もの映画やドラマでは取調室で、大げさなほどに声を荒げたり、机を叩いたりして、被疑者を脅すような言動をする。実際の現場で本当にこのような聴取や査問をするのかは知らないが、本作の中で捜査官の二人は恫喝や詰め寄るようなことはしない。主人公のリアリティと同じように極端なほどに落ち着いていて、おもむろに世間話から入り、ふいに確信を突くような質問をして、静かに、丁寧に、しかし確実に彼女を追い詰めていく。これもまさにリアリティがリアリティであった。

しかも尋問するのは彼女の自宅の一室であり、それなりに広い空間で圧迫感は少ないはずなのに、平静な会話を交わしながらも巧みに言葉を選び、陰から獲物を狩るような雰囲気が、強烈な緊迫感を覚えさせる。これもまたなんだか嘘っぽいようで、しかしやはり一周回って事実のように感じられる。いや、事実なんだけど。

その淡々とした物言いや、明鏡止水な態度がむしろ逃げられない恐怖を演出していた。静寂で追い込む――それが本作の恐ろしさであり、これこそが“リアルな取り調べ”の描写である。静けさの中に潜む緊張が、リアルさをさらに高めている。演技ではない演技、だがそれは状況の再現であり、演技していなかったことを演技しているという難しい状態であるにもかかわらず、それをやはりリアリティをリアリティめいたものにしている役者であったのだ。

静かな緊張の積み重ねが生むリアリティ

最初は軽い雰囲気だが、徐々に核心に迫っていくにつれて緊張が増していく。

やがて主人公リアリティの心情もナーバスになっていき、まばたきが多くなったり視線が泳いだり、そして姿勢も崩れ始める。シドニー・スウィーニーはその小さな変化の積み重ねを細やかに演じており、心理的な動揺が目に見えない形で伝わってくる。

一方の捜査官たちは最後まで落ち着いたままであり、その冷静さが逆に狂気を感じさせる。感情の起伏が少ないからこそ、観客はわずかな変化を敏感に察知し、息苦しいほどの緊張に包まれるのだ。映像上では何も起こっていないように見えても、登場人物たちの内面では激しい駆け引きと心理戦が展開されている。

観終わったあとに残るのは、緊張からの解放と、静寂が持つ重さである。『リアリティ』は、派手な演出を一切排除しながらも、人間の心の揺らぎと真実を映し出した異色の実話サスペンスである。

 

リアリティが問いかけるもの

映画『リアリティ』は、単純な実話の再現ではない。視聴者に「真実とは何か」「正しさとは何か」を静けさの中で問いかけてくる作品である。尋問という行為を通して描かれるのは、罪の有無ではなく、国家と個人の間に横たわる“見えない境界線”である。

リアリティ・ウィナーは、国家機密を漏洩したという一点で「罪人」とされるが、映画は彼女を断罪することも、擁護することもない。焦点が当てられているのは、正義の定義そのものだ。国家にとっての正義と、個人にとっての良心は、果たして同じ場所に存在するのか。沈黙の中で時折に繰り返される会話は、そのズレをじわじわと浮かび上がらせていく。

本作品には、明確な解答が提示されない。むしろ、答えがないことこそがリアリティなのだ。視聴者は、リアリティ・ウィナーの行動をどう捉えるか、自らの中に答えを見つけなければならない。彼女の「真実」は国家の「虚構」と交差し、そこにこそ人間のリアルな葛藤がある。

それにしても、映画タイトルの“リアリティ”がリアリティ・ウィナーというというのは出来過ぎていて、不思議なリアルである。そして、現実(Reality)とは何か。誰がそれを定義し、どの時点で「真実」とされるのか。フィクションとドキュメンタリーの狭間にある本作は、その問いを突きつける。演技と記録、虚構と現実、その境界が曖昧になる瞬間にこそ、本物のリアリティがある。

静かな空気の中で粛々と進むこの映画は、我々が“当たり前”と思い込んでいるリアリティを揺さぶってくる。真実はいつも静かに隠されており、それをどう受け止めるのかは我々次第である。『リアリティ』は、個人と国家、真実と沈黙、正義と両親の狭間に潜む問いを、静かに、しかし鋭く問いかけているのだ。

 

こんな人にオススメ!

映画『リアリティ』は、派手なアクションシーンや展開を求めるような作品ではない。静かな緊張の中にある心理の動きをじっくりと感じ取りたい人に向いている映画である。実話をもとにした重みと、リアリティそのものを味わうことができる。

  • 静かな会話劇や心理サスペンスが好きな人
  • ドキュメンタリー的手法や実話ベースの映画に興味がある人
  • 「沈黙の中にある緊張」を感じ取る映画体験を求めている人
  • 国家・個人・真実といったテーマを考察する作品を好む人
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静けさの中の真実 ― 締めくくりに

『リアリティ』は、実在の事件をただ再現する映画作品ではなく、“現実”そのものを映し出す試みである。そこに映されるのは罪や罰ではなく、人間の内面に潜む恐れと理世、そして良心の微妙な呵責の揺らぎである。何が正しいのか、どこに真実があるのか、その答えを視聴者に委ねる構成が、この映画の核心だ。

静寂の中にピンと張りつめた今にも引き切れそうな緊張があり、何も起こっていないようでいて、すべてが起こっている。シドニー・スウィーニーの繊細な演技と、実録映像のような空気が漂って一体となり、観る者の精神を少しずつ削っていく。しかしその静けさの先にあるのは不快ではなく、確実に存在する“現実への理解”なのだ。

映画『リアリティ』は、沈黙の中に真実を見つけるための映画である。視聴者の感受性と考える力を試す、極めて沈着な、しかし鋭い一本だった。

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映画『リアリティ(2023年)』の作品情報まとめ(監督・キャスト・配信情報など)

  • 監督:ティナ・サッター
  • 出演:シドニー・スウィーニー, ジョシュ・ハミルトン, マーチャント・デイヴィス
  • 公開年:2023年
  • 上映時間:82分
  • ジャンル:ミステリー, サスペンス

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