利潤至上主義の歪みを描いた社会派サスペンス・ミステリー
感想『ラストマイル』レビュー
映画『ラストマイル』は、物流業界を舞台にしたサスペンス・ミステリーである。
11月のビッグセール「ブラックフライデー」が目前に控えた夜、世界的大手ECサイトから発送された段ボール箱が、顧客宅で爆発するという衝撃的な事件から幕を開ける。そこから始まった”配送物爆破事件”は、瞬く間に日本全国を恐怖に巻き込む一連のテロへと発展する。

そんな異常事態に直面するのが、関東圏を支える巨大物流拠点――西武蔵野ロジスティクスセンター。新任センター長の舟渡エレナ(松島ひかり)と、チームマネージャー梨本孔(岡田将生)である。混乱の渦中で、彼らは事件の収束と業務の継続を両立させるという過酷な使命に立ち向かう。
緊迫する捜査と交錯する世界観
事件解決の糸口を追う捜査線上には人気TVドラマ「アンナチュラル」や「MIU404」の世界とつながるキャラクターたちの姿も――元刑事や法医学者が登場し、それぞれの専門性で事件に関わっていく。まるでドラマの続きのような共闘が、サスペンスとしての深みを与える。
タイトル『ラストマイル』の象徴性
物流用語として「最終工程=顧客への配送」という直接的な意味をもつ「ラストマイル(LastMile)」だが、本作ではそれ以上のニュアンスを帯びる。
配送という物理的なゴールではなく、”人の顔が見える場所で現れる不条理”の象徴として用いられていることがわかる。クライマックスでの一幕や、配送ドライバーの声が印象的に響き、ライトマイルという言葉が”人と世界のつながり”を語る象徴として回収される構造だ。
全体的感想レビュー
『ラストマイル』は、ブラックフライデー直前の物流爆破事件という衝撃の始まりから、センター長やチームマネージャーが危機的対応に奔走し、捜査の中で他のドラマ作品と交錯しつつ、最後には”人の手に届く場所=ラストマイル”で描かれる人間ドラマへと帰結していく物語である。タイトルの物理的意味と象徴的な意味が重なり合う構成もこの作品の魅力のひとつであろう。
※本レビューはネタバレを含みます。
▶ 読みたいところだけチェック
『ラストマイル』あらすじ
映画『ラストマイル』の見どころ:テンポとスケール感
日本映画としては若干長尺な129分。それでも全体的なテンポは良く、最後まで緊張感は持続していた。いきなりの爆発シーンで幕を開け、派手な演出で視聴者を引き込んでいく。一方で、序盤から情報量が多く、人によっては視聴しながらキャラクターの関係性やストーリーを整理するのはしんどいかもしれない。複数回の視聴や、解説記事を読むことで「あぁなるほど、そういうことか」と納得できる構造になっており、リピート鑑賞に耐える作品である。
また、本作のシナリオはミスリードを狙った展開が含まれている。私はまあまあの関心具合。しかしながら若干作為的に映る場面もあり、ミスリード狙いが透けて見える。敢えてそうしたのか、結果そうなったのかは不明。
映像面では「制作費をしっかり投じている」という印象が強い。Amazonを思わせる巨大倉庫やそこに座する無数の商品、羊急便と名付けられた数十台の配送トラック、カスターマーセンターの大量の電話とPC、デスクに至るまで、現実の物流インフラを彷彿とさせるスケール感が画面を支配する。そして俳優陣の豪華さに至るまで、圧倒的だった。
個人的には、星野源が渋くてクールでカッコ良かった。脂の乗った大人の魅力がにじみ出ており、観客の目を釘付けにする。そりゃガッキーだってメロメロになること請け合いである。まさに、「今が旬の俳優」の風格を感じさせる仕上がりである。
初々しい星野源はコチラ ▼
サスペンスとしての穴とリアリティの欠如
映画『ラストマイル』は、圧倒的なスケール感や豪華キャスト、そして『アンナチュラル』『MIU404』といった他作品との世界観の共有という魅力を以ってして、社会派ドラマとしては独自の存在感を放っている。しかしながら、サスペンス映画として冷静に見ると、いくつかリアリティ不足な部分や穴が散見された。
まず気になったのは、爆発事件が起きて犠牲者が出ているにも関わらず、現場で対応にあたるのが社員たった2人(センター長とチームマネージャー)という構図。実際の巨大外資系ECサイトを思わせる規模の物流センターなら、本来ならもっと大勢で危機対応にあたるのではないか?というか、こんなにも巨大な外資系ECサイトの配送倉庫を管理している正社員がそのたったの2人である。センター長とチームマネージャーだけというのはリアリティに欠けるというか、ぶっ飛んでいる。Amazonなどの企業が実際にどうかは知らないが、あれほど巨大な企業をモデルにしている以上、いや、モデルにしていなくても、視聴者はどうしても現実の感覚と照らし合わせてしまうものである。
さらに、センター長の上司と思しき役職者は現場に姿を見せず、電話で指示を出すだけ。爆弾が自社の配送物に12個も紛れ込んでいるかもしれない状況で、呑気にジムでランニングしているシーンには呆れた。
また、配送の遅延による影響を描くシーンにも疑問が残る。あれがないこれが来ないと皆が慌てているが、特に病院での描写だ。病院に医療品が届かず「患者の命が危ない!」という展開があるが、そもそも配達が一日二日遅れたくらいでとん挫するような病院があるだろうか。現実の病院は通常数週間から一か月分の在庫を備えている。ましてや手術に直結するような重要な医療品をECサイト経由で調達するだろうか? そもそも売っているのだろうか?その設定は、ややご都合主義に感じられた。
おそらく製作者側は「物流が止まることの社会的インパクト」を強調したかったのだろうが、結果としてサスペンスのリアリティを損ねていたのは否めない。
主人公の心理描写とキャラ変への違和感
映画『ラストマイル』における主人公・舟渡エレナ(満島ひかり)の心理描写について、ストーリーの前後半では主張が180度かわる。この点に強い違和感を覚えた視聴者は少なくないだろう。
序盤では「爆発物が混じっていようと、とにかく配送だ」そんな利潤至上主義的な姿勢が徹底され、機械的に任務を遂行する姿が映される。さらに取引している配送業者にも、配送シェアの六割を握っていることを盾に圧力をかける冷徹な人物として描かれる。しかし終盤になると一転して荷物を必死に探し出そうと奔走し、まるで別人のように行動が変化する。
上司に対して責任を問い詰めるシーンがあるが、「いや、同じことを立場の弱い同僚や配送業者に対してあなたもしてましたよね?」と突っ込みたくなる。もし自らの行いを反省する描写が挟まれていれば説得力が増したはずだが、その転換点がどこで起きたのかが曖昧なまま進むため、キャラクターの変化が唐突に見えてしまい、物語としての説得力に欠けた。
実際、他のレビューでも「キャラ変が強引」「後半は良い人っぽくなって違和感」「満島ひかりの役がどうしても腑に落ちない。」といった意見が多く、少なからず視聴者が同じ違和感を抱いていることは興味深い。
結果として、人物の成長や葛藤が唐突に見えてしまったのは惜しい点である。
映像演出と社会的メッセージ
一方で、映像と演出の迫力は確かに圧倒的であった。緊張感を維持しながらもテンポ良くストーリーを進める力量は見事であり、視聴者を最後まで引き込む力があった。
ノンストップの疾走感の裏側で、「誰かの日常を支える仕事は、誰かの命を守る仕事である」というテーマが静かに顔を出す。その瞬間、派手な爆発シーンやテンションの裏にある社会的なメッセージが浮かび上がるのである。
『ラストマイル』タイトルは噛み合っていない?
本作のタイトル『ラストマイル』。本来は、「最終拠点から顧客の手元までの最後の区間」という通信・物流用語。
しかしながら、映画の大半は巨大EC”倉庫=ミドル領域”で進行し、犯行も内情に通じた者が配送サービスの仕組みの裏をかいて爆弾を紛れ込ませる。つまり、下流の配達現場そのものより、上流から中流の構図が中心であり、ここにタイトルとの乖離があるように受け取れる。
率直に私の見解を申し上げると、タイトル『ラストマイル』は「当たっている部分」と「ズレている部分」が半々だと感じた。
まず”イエス(弱い面)”
ストーリーの主戦場は巨大倉庫でのサスペンスであり、犯人像もラストマイル=配達現場よりはシステム側の歪みに結びついている。視聴者がタイトルから想像する「配達員が直面する葛藤中心のドラマ」とはやや噛み合わない。
そして”ノー(擁護できる面)”
作り手は、「ラストマイル」を単なる物流用語としてではなく、象徴として用いている。末端=人間の顔が見える地点で不条理が噴き出す比喩として機能し、終盤では「命をつなぐ最後の配達」やドライバーの声によってタイトルが回収される。さらに。「真犯人は利潤至上主義そのものではないか」という示唆が重なり、個人の一歩と社会の一押しを二重に連ねる構図になっていた。
჻჻჻჻჻჻჻჻჻჻჻჻჻჻჻჻჻჻჻჻჻჻჻჻
つまり『ラストマイル』というタイトルは、内容と完全には一致しないが、象徴的な仕掛けとしては成立しているのである。その半端さをどう解釈するかで、この映画に対する印象は大きく変わるだろう。
こんな人にオススメ!
- 『アンナチュラル』や『MIU404』など、野木亜紀子作品の世界観が好きな人
- 現代社会の歪みを題材にした社会派サスペンスに関心がある人
- 豪華キャストによる群像劇を楽しみたい人
- 星野源や満島ひかり、岡田将生といった実力派俳優の演技を観たい人
- エンタメとしてのスケール感と社会的テーマの両立を求める人
まとめ:映画『ラストマイル』レビュー
映画『ラストマイル』は、ブラックフライデー直前の物流爆破事件という衝撃的な設定を軸に、社会派ドラマとエンタメ性を融合させたサスペンス作品である。リアリティ面での弱点やキャラクター描写の違和感はあるものの、圧倒的なスケール感や世界観の広がり、そして豪華キャストの熱演は見どころ十分。
「物流のラストマイル=人の手に届く場所」を舞台にした本作は、社会の裏側と人間ドラマを同時に描き出す意欲作であり、考察や議論を呼び起こす一本である。
映画『ラストマイル(2024年)』の作品情報まとめ(監督・キャスト・配信情報など)
- 監督:塚原あゆ子
- 出演:満島ひかり、岡田将生、ディーン・フジオカ、大倉孝二、酒向芳、宇野祥平、安藤玉恵、丸山智己、火野正平、阿部サダヲ、石原さとみ、井浦新、窪田正孝、市川実日子、竜星涼、飯尾和樹(ずん)、薬師丸ひろ子、松重豊、綾野剛、星野源、橋本じゅん、前田旺志郎、麻生久美子
- 公開年:2024年
- 上映時間:129分
- ジャンル:サスペンス