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劇場用実写映画『秒速5センチメートル(2025年)』感想レビュー|アニメとの違いと切なさの再構築

アニメとは違った良さはあるが期待値が高すぎた作品

劇場用実写映画『秒速5センチメートル』感想レビュー

実写映画『秒速5センチメートル』(2025年公開、監督:奥山由之)は、2007年公開の新海誠のアニメ作品を原作に、リアルな街並みと実在感のある人物で再構築した挑戦作である(主演:松村北斗高畑充希ほか)。

桜の花びらが舞い、春の風が頬を撫でる――そんな情景を思い出すとき、私たちはいつも「触れられなかったあの想い」を蘇らせるのかもしれない。劇場用実写映画『秒速5センチメートル』は、かつてアニメーションとして多くの人に深い印象を刻んだ物語を、リアルな風景と実在する人物で再構築した挑戦作品である。

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この映画には、離れた距離、すれ違う心、そして時間の流れが紡ぐ切なさを、スクリーンの中に静かに呼び込んでいく。本作を観たとき、あなた自身の記憶と重なる“届かない気持ち”に、そっと触れさせられるだろう。それらすべてをスクリーンの中で再び引き寄せられる。実写化という大きな賭けのもとで、本作がどこまで原作ファンと新規の観客の期待に応えられるのか、非常に興味深い。

再会を喜び抱きしめあう男女の二人

『再会を喜び抱きしめあう男女の二人』

舞台挨拶中継が観たくて仕事を早退し、私は職場を後にしタクシーで劇場へと向かった。上映開始が16時10分で、チケットを購入したのも16時10分。上映開始後20分まではチケット購入できることを私は知っていたから心配はしていなかったが、序盤を見逃さずに観ることができる。ほぼ満席状態であり、平日の16時に映画館に来られるなんて、「この人たちは仕事はどうしたんだろう働け!」と自分のことは棚に上げてツッコミを入れる。

当初はスクリーンで観るつもりはなかったのだが、8月9月と映画館でのしつこい宣伝と、高畑充希が出演するということで視聴することにした。アニメの方の『秒速5センチメートル』のレビューも書いちゃったし。

しかしながら、名作として名を馳せる『秒速5センチメートル』を実写版としてリメイクするなんて、監督の奥山由之氏にプレッシャーはなかったのだろうか。そのあたりは舞台挨拶では語られなかったが、まぁ多少メンタルが強くないと監督とか俳優とか、そんな大変そうな職業はやってられないだろう。

さて本作、劇場用実写映画『秒速5センチメートル』の私の率直な感想であるが、「思ったほどではなかった」というのが正直なところだ。と言うよりは、期待しすぎていたというのが本当だろうか。まぁ映画そのものはともかく、個人的には「おしとやかな方面の演技」の高畑充希が観られて私は満足である。「忘却のサチコ」の演技も好きだが、ともかく高畑充希ならなんでもいい。

個人的な趣味はここらでやめておいて、映画作品のレビューをしていこう。

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劇場用実写映画『秒速5センチメートル』あらすじ

児童期に心を通わせた遠野貴樹と篠原明里は、やがて進学や転居によって互いの生活圏を分かつことになる。離れてしまった距離を手紙や思い出で補おうとするが、時間と状況が少しずつ二人の関係を変質させる。遠くから届く言葉は確かに温度を保つ一方で、直接顔を合わせて交わす感情とは形を異にしていくのである。
やがて歳月は流れ、貴樹は別の土地で社会人としての日常を送るようになる。過去の記憶は断片的に現実と重なり、現在の選択や出会いに微かな影を落とす。物語は一つの出来事や一瞬の風景を切り取るように断章的に進行し、季節の移ろいとともに「届かない」心の距離を映していく。
桜の落ちる速度を示すメタファーは、時間が人と人のあいだに積もらせる隔たりを象徴する。届きそうで届かない想い、重ねられた記憶、そして日常の細部が静かに胸を締め付ける──実写版はそうした原作の核を現実の風景の中へと移し替え、目に見える場所に感情の隙間を描こうとしている。

物語の進行と映像美で感じる「実写秒速5センチメートル」の空気感

本作のストーリー展開は、焦らずゆったりと流れていく。それは「遅い」ということではなく、「余白を味わう」ような進行速度として感じられる。実写化された本作では、アニメ版と同様に情景や空気感を丁寧に描くことに重点が置かれ、観客は次の展開を待ち構えるよりも、ひとつひとつのシーンを味わいながら鑑賞できるだろう。私はアニメ版『秒速5センチメートル』を既に観て大筋を知っているからこそ、それゆえに余裕を持って眺められた面もある。しかし新規の人でも落ち着いてじっくりと鑑賞できる作りだ。物語の運び方はもちろん、台詞に込められた感情や風景の美しさを肌で感じ取れつつ、じっくり噛みしめながらその意味を考える時間を与えてくれる。

本作の映像表現は、空・海・大気といった自然描写に非常にこだわっており、アニメ版の世界観へのリスペクトを感じる。特に星空の広がりや、ロケット発射シーンの壮大さは、実写化ならではのリアリティを以て圧巻のひと時を思い知らされるのだ。

キャストに関してはもはや高畑充希にしか目がいかないが、あまりに個人的感想すぎるので自重しておく。特筆するなら篠原明里を演じた白山乃愛だろう。まだ幼いながらも存在感を放っていた。大げさすぎず、かといって控えめでもなく、自然とあどけなさを残しながらしかし、演技での芯の強さというか、役柄ではなく彼女自身の役に対する想いの強さ、もしくは作品への想いかもしれないが、それがしっかりと全面で表現されていたように感じる。

ところどころに挿入される楽曲もまた、この映画の印象を形作る重要な要素である注目ポイントの一つだ。エンディングテーマを歌う**米津玄師**は言うまでもなく、私自身は**BUMP OF CHICKEN**の楽曲にも心を掴まれた。どの曲も映像と密接にリンクしていて、感情の波を後押しする役割を果たしており、視聴者の心を掻き立ててくる。

ストーリーについては後述するが、独自に脚色がなされていて、賛否がわかれるところだろうとは思う。原作との違いをどう捉えるかで印象が変わるだろうが、「丸く落ち着かせた」ようなイメージ。

とはいえ、総じてこの映画は決して「駄作」とは言えない。むしろ、実写という挑戦を通じて持ち味を見せようとした部分が多く、少々期待外れ感は否めないが、私としては「良い映画」に傾く評価をしたい。

 

アニメ版との違いと実写版の影響を読み解く

ここでは、オリジナルアニメ版『秒速5センチメートル』と劇場用実写映画『秒速5センチメートル』との違い・共通点、そしてその変更が作品全体に与えた影響について考察する。**若干のネタバレを含む**ので、作品内容をこれから知りたい人はご注意を。

ストーリー構成の違い:回想と時系列のずらし

オリジナルアニメと決定的に異なる点は、ストーリーの構成方法だろう。アニメ版では時系列順に則って物語が進むが、劇場用実写映画『秒速5センチメートル』では大人になった主人公・遠野貴樹が回想するような語り口をとり、時系列も若干に前後をずらして描写される。アニメ版が“成長する過程”を丁寧に描いていたなら、実写版は“成長した後の人生を探る”ような性格を帯びる。

アニメ版では大人になった後での篠原明里との関係性が物語の先に進むまで明確にはわからないが、実写版ではストーリーの序盤で二人がすでに疎遠になっていることが示される。疎遠になっているというか、「かつて親しかった少女がいた」という形式で、過去と現在との対比を早めに見せる構成だ。私は原作を知っているので、先入観が混じって純粋な気持ちで視聴できていないだろうから、初見の人とは感じ方が違うかもしれない。私には斬新だったが、実写映画から視聴した人にはわかりづらい部分もあったのではないか。例えば、明里から「一緒の中学に行けなくなった」という連絡があった直後に、舞台が突然に種子島へと切り替わる。貴樹が転校したということがのちに説明されるが、オリジナルを知らない人は「さっきまで東京だったのに??」と疑問に思うかもしれない。もちろん、敢えてすぐに説明しなかった可能性もあるが、高校生になった貴樹を演じる青木柚を見て、視聴者が「この男の子はだれ?」と感じやしないかと私は思った。

補完された大人の物語と脚色の評価

実写版では、明里のその後や、貴樹が交際する女性・**水野理沙(木竜麻生)**の背景などが丁寧に掘り下げられている。何しろ実写版の上映時間はオリジナルアニメの倍近くあり、従来は描かれなかった“大人になってからの時間”を補完できるようになった。きっとこの辺りはきっちり描写してくるだろうと予想していたが、私の思った通りだった。そのおかげで、アニメ版では見えずらかった貴樹と水野理沙の関係性や、現在の明里がどう生きているのかが明確になり、人物像がしっかりと浮かび上がる。特に、明里への想いを断ち切った後に、恋人だった水野理沙に対してしゃんと向き合った貴樹の姿は大変に好印象だった。

ただし、その追加がゆえに高校時代のエピソード(たとえば澄田花苗(森七菜)の一途な思いなど)がやや淡くなった印象も受ける。それを補強するために澄田花苗の姉を演じる宮崎あおいの登場だったのだろうが、偶然が偶然すぎてご都合主義が目立った形に私には映った。高校時代の貴樹の恩師が大人になった明里の上司だなんて奇跡にもほどがある。少々口を尖らせてしまう設定であった。

名シーンの扱いと再構築:雪・桜・再会への期待

劇場用実写映画『秒速5センチメートル』では超名シーン、“雪の影響で電車が遅れ、二人が出会えないかも……”というアニメ版の象徴的なシーンは、実写版では中盤以降に配置されている。そのシーンの手前に高校時代が始まってしまうから、「まさかあのシーンをカットしたの??さすがに未成年でキスシーンはまずかったのか」といらぬ懸念も抱いたが、実際にはきちんと描かれていて安心した。そして、まさにその場面はアニメ同様に、いやそれ以上に美しかったといっても過言ではない。

一面の雪景色の中、まだつぼみすら見せない桜の木。その前にゆっくり近づく二人の姿――このビジュアルだけで心を揺さぶられる。実写版においても、間違いなく“名シーン”として刻まれるだろう。

さらに驚くべきことに、大人になった貴樹はまた同じ場所へ赴く。そして、雪の降る中、桜は凛として立ち、花開いている。あまりにも美しい。それを見るだけでも、劇場に足を運ぶ理由になるだろう。

どれほどの速さで生きれば、きみにまた会えるのか

大人になってからの貴樹と明里は”人間関係的にも物理的にも“非常に近い距離にあり、少しでもタイミングが合えば会えてしまいそうなほど近くにいるのだが、しかし絶妙にすれ違う。まさに本作のキャッチコピー「どれほどの速さで生きれば、きみにまた会えるのか」を見事に体現している。オリジナルアニメを知っている私でも、「え、会っちゃうの?会えちゃうの?」と期待してしまった。

特に踏切での“鉢合わせ”シーンはアニメそのものの構図であり、アニメ―実写の狭間に立つような感覚を味わえた。

――この再会の行方をここで語るのは避けるが、あえて一言だけ。あなた自身の目で、それが“会える”か“会えない”かを確かめてほしい。

 

なぜ明里は「約束の日」に来なかったのか

劇場用実写映画『秒速5センチメートル』において、もっとも印象に残るシーンのひとつは「あの約束の日」に明里が現れなかった場面である。個人的には彼女に来てほしかったのだが、あの決断には単純な事情では説明できない複雑な意味が込められているようである。明里は「来なかった」のではなく、「来られなかった」でも「行かなかった」でもある――その構造こそが、作品全体のテーマを象徴していると言えるのではないか。

心理的な「行かなかった」理由

明里は中学進学を前に、すでに「遠野貴樹とはもう会えないかもしれない」という現実を理解していた。約束を果たせば一時の幸福を得られるが、その瞬間をもって二人の関係は終わってしまうかもしれない――そのことを彼女は感じ取っていたのではないか。つまり「行く」という行為は、同時に「別れを受け入れる」ということでもある。明里はその現実を恐れた。会って終わるくらいなら、会わずに想いを残したかった?

象徴的な「行かない」という選択

新海誠が一貫して描いてきたのは、「距離」と「時間」が人をどう変化させるかというテーマである。映画『君の名は。』でもそれは明確だ。明里にとって“行かない”という選択は、貴樹との思い出を永遠のまま閉じ込めるための行為でもあった。彼女の中ではすでに物語は完結しており、再会して現実を上書きする必要はなかったのかもしれない。言い換えれば、明里は「行こうとして行けなかった」少女であり、「会いたいけれど会わない」女性でもある。その矛盾こそが、『秒速5センチメートル』という作品の儚さと痛みを生み出している。

大人になった明里が結婚を控えながらも、かつて貴樹と交わした手紙(手帳)を今も大切に持っている描写は象徴的である。彼女の中で“貴樹への想い”は未完のままであり、「行かなかった」理由は後悔や冷淡さではない。むしろ、あの日の気持ちを永遠に美しいまま閉じ込めたかったのだろうと考えられる。私はそう思いたい。

「貴樹くんなら大丈夫」という言葉は、貴樹本人に伝えていたというよりは、自分自身に言い聞かせているようでもあった。

 

こんな人にオススメ!

劇場用実写映画『秒速5センチメートル』は、もはや単なる恋愛映画ではない。美しい映像と静かな余韻の中に、時間の残酷さや人の成長、そして“すれ違う想い”が丁寧に描かれている作品である。アニメ版を知っている人にも、知らない人にも、それぞれ違った感情を呼び起こすだろう。

  • アニメ版『秒速5センチメートル』が好きで、実写ならではの解釈を見てみたい人
  • 静かで叙情的な恋愛ドラマや、風景の美しさをじっくり味わいたい人
  • 過去の恋や「もしもあの時…」という想いを抱えたまま大人になった人
  • 新海誠作品のテーマである「距離」「時間」「変化」に心を動かされた人

映像のトーンや演出は派手ではないが、観終わった後に静かに余韻が残る。物語に寄り添いながら、登場人物たちの“届かなかった想い”に自分を重ねることができる人なら、この作品は深く心に刺さるはずである。

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まとめ:静かに、確かに、心を揺らす実写版

劇場用実写映画『秒速5センチメートル』は、アニメ版の再現ではなく、もう一つの「遠野貴樹と篠原明里の物語」である。過去を懐かしむのではなく、時間を経てなお消えない想いとどう向き合うか――そのテーマが丁寧に描かれている。 映像は美しく、音楽は胸に沁み、登場人物たちの感情は繊細でリアルだ。アニメ版の余韻を壊すことなく、むしろ補完する形で仕上げられているのが印象的である。

たとえば二人が再会しなかったとしても、あの桜の下で交わした想いは確かに存在する。 その儚さと強さを静かに描き出した本作は、派手さよりも余韻を大切にする大人のラブストーリーとして、長く記憶に残る作品だ。

とはいえ、本レビューの冒頭で”アニメとは違った良さはあるが期待値が高すぎた作品”と記したことを私は忘れてはいない。正直、アニメ版から補強や脚色を加えたことでかえってわかりにくくなってしまった部分や、ご都合主義に感じる部分もある。諸手を挙げて称賛できる作品ではないが、しかしそれはオリジナルであるアニメ版も同様である。じゃあ原作が悪いのかというと、そういうわけでもない。しかし、なんというか存在感がある、とは言える。

アニメ版と同様に、二度三度と視聴してみることで、また違った評価を下す作品なのではないか。劇場用実写映画『秒速5センチメートル』も、最高傑作ではない映画ではあるが、それでも名作として語り継がれるような作品であるように私は思う。

 

劇場用実写映画『秒速5センチメートル(2025年)』の作品情報まとめ(監督・キャスト・配信情報など)

  • 監督:奥山由之
  • 出演:松村北斗, 高畑充希, 森七菜, 青木柚, 木竜麻生, 上田悠斗, 白山乃愛
  • 公開年:2025年
  • 上映時間:121分
  • ジャンル:青春, ロマンス, ドラマ
  • 配信

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