タイムループ × ラブコメの傑作映画|『パーム・スプリングス』レビュー
―笑いと愛の新感覚のラブコメディ『パーム・スプリングス』―
同じ1日を繰り返す系ストーリー『パーム・スプリングス』。
主要人物はナイルズ(アンディ・サムバーグ)とサラ(クリスティン・ミリオティ)、+オジさん(J・K・シモンズ)。繰り返される日々の中で、それぞれに気づき、学び、考え方や価値観が変わっていく姿が描かれる。
そしてタイムループを通じ、惹かれ合うナイルズとサラ。
ループする日々から逃れるのか、それとも留まるのか。また、徐々に明かされていく2人の秘密――。も見どころ。
タイムループ作品やSFコメディが好きなら、必見だ。
※このレビューは多少ネタバレを含みます。
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こちらの記事を拝読いたしまして。こりゃあ面白そうだってんで視聴した次第です。
映画『パーム・スプリングス』とは?タイムループ×コメディの傑作
数あるタイムループ映画の中でも、とびきり個性的なのが『パーム・スプリングス』である。
展開は少々ぶっ飛んでいて、開幕から矢が飛んできたり、トラックに突っ込むなどといった予想外で過激なシーンが多く、また笑いどころもユーモアに富んで視聴者のハートをガッチリキャッチ、コメディ映画としての魅力を強調している。
キャラクターも個性的で一見破天荒ながら、それぞれに悩みや陰を抱えており、その内面が少しずつ明かされていく過程は魅力的だ。
また、視聴時間は90分と短めの中にしっかりとそれらが濃縮、テンポよく無駄のない構成に仕上がっており、短時間で濃厚な体験を楽しめる、まさに「90分映画の理想形」と言えるだろう。映画の尺が90分というのは、個人的に一番視聴しやすい。
あらすじ|結婚式の日に繰り返されるタイムループ
舞台は砂漠のオアシスリゾート地・パームスプリングス。
11月9日。そこで行われる妹の結婚式に参加したサラ(クリスティン・ミリオティ)は、会場で出会ったナイルズ(アンディ・サムバーグ)と気が合って、結婚披露パーティを抜け出すことに。
2人で良い雰囲気になるが、それも束の間。突如、ボーガンの矢がナイルズを襲う。逃げるナイルズを追って、サラは不思議な洞窟に迷い込んでしまう。ナイルズは「来るな!」と警告するも、サラは彼に近づいていき、そして洞窟の奥へと吸い込まれていく。
気が付くとサラはベッドの上。再び11月9日の朝に戻っていた。
混乱するサラは、どういうことかとナイルズに詰め寄る。ナイルズは事情を説明し、自身も同じ1日を繰り返していること、そしてすでに何万回も繰り返していること、ナイルズを襲ったのは同じくループの世界にはまっているロイ(J・K・シモンズ)であることを告げる。
ループが生む恋愛の哲学的問いかけ
何度かはタイムループからの脱出を試みるサラだったが、どうやっても抜け出せないことに観念すると、しばらくはナイルズと行動を共にし、このループ生活を楽しむことになる。
その過程で2人は次第に惹かれ合っていくが、特筆すべきは恋愛の成立要因に関する深いテーマである。
私は疑問に思う。ナイルズとサラが互いに惹かれ合うのは、単に同じ記憶を共有しているからなのか。もしタイムループがなかったら、ナイルズはサラに惹かれただろうか。そしてサラもまた、ループの外でナイルズに心を開いたのだろうか。
実際、ナイルズがサラをループ世界に引き入れたのは「数万回繰り返した中の偶然」に過ぎない。その夜の口説き文句も、数えきれない繰り返しの中の戯れに過ぎなかったかもしれないのだ。
サラもまた、タイムループがなければナイルズに惹かれたのかというのも同じだ。その夜、ナイルズと良い雰囲気になったのは、酒の勢いとパーティでの雰囲気がただ影響しただけだったかもしれない。
この問いは私にも視聴者にとっても鋭い。
タイムループ無しだったらば、2人は恋人になれたのか?これは私にとっても『パーム・スプリングス』が投げかける恋愛映画としての哲学的テーマである。
もちろん現実にはタイムループなんて起こりようもないから(もしかしたらどこかで起こっているかもしれないが)、そのことそのものへの考察のし甲斐はあまりないのだが、このことは例えば「もし私の両親がダンス教室で出会っていなければ、私は生まれていなかったのでは」という因果律の思考実験に近い。というのは私の考え過ぎだろうか。
タイムループを題材にしながら、作品は偶然と必然、そして愛の成立条件について私たちに問いかけてくるのである。
同じ題材同じテーマを扱った『明日への地図を探して』と本作の比較
前述したように、しばらくはナイルズと共にループ生活を楽しむサラだったが、ある日の罪の意識とナイルズの告白から「タイムループから抜け出したい」と強く願うようになる。
しかしナイルズは相変わらず「ループ生活を楽しみたい」と考えており、2人の思いは対立。
「タイムループから抜け出したい」と「タイムループに留まりたい」という相反するテーマが、このストーリーを大きく揺さぶっていく。
同じように、「タイムループから抜け出したい」と「タイムループに留まりたい」をテーマにした作品がある。
実はこの対立構造は、同じくタイムループ映画である 『明日への地図を探して』でも描かれている。
下手なレビューで、いま読み返すとリライトしたい気持ちが込み上げてくるがそれはさておき、本作『パーム・スプリングス』では、ナイルズは「ずっと楽しんでいたいから」ループに留まろうとするのに対し、過去レビュー『明日への地図を探して』では「次の日が来てほしくないから」ループに留まろうとするという動機の違いが描かれている。
同じタイムループを題材にした映画であり、さらに「タイムループから抜け出したい」と「タイムループに留まりたい」というテーマまで一致するのに、ここまで対照的な作品に仕上がるのには舌を巻いた。『明日への地図を探して』も良作なので、未見ならばぜひ視聴してみて欲しい。
クライマックス|ロイが示す「ループ世界での幸せ」とは
本筋から脱線してしまった。話を戻そう。
ある日、ナイルズは宿敵ロイ(J・K・シモンズ)を訪ねる。かつてはナイルズを執拗に狙っていたロイだが、今ではナイルズの「ループ世界を楽しむ」とはまた違ったタイムループの中での幸せを見いだしていた。
そのロイの幸せを感じる姿を前に、ナイルズは自分にとっての本当の幸せとは何かを見つめ直すようになる。
そして、ナイルズは遂に「ループに留まるのか、それとも抜け出すのか」という究極の選択に向き合うことになる。物語はここからクライマックスへと進む。
『パーム・スプリングス』はこんな人にオススメ!
タイムループを題材にした映画は数多いが、その中でも『パーム・スプリングス』はユーモアとロマンス、そして哲学的な問いを兼ね備えている。
- タイムループ映画やSFコメディが好きな人 ─ 『バタフライ・エフェクト』『恋はデジャ・ブ』などが好きなら必見。
- 90分でテンポよく観られる映画を探している人 ─ 長尺作品が苦手でも最後まで一気に楽しめる。
- 恋愛要素と哲学的テーマを同時に味わいたい人 ─ 「もし出会いが違っていたら」という問いかけが心に残る。
まとめ|90分に凝縮されたタイムループ映画の魅力
『パーム・スプリングス』は、タイムループ映画にありがちな繰り返すことの退屈さを感じさせず、コメディとしても恋愛映画としても楽しめる一作。
90分というコンパクトな尺に、笑い・切なさ・哲学的な問いかけが凝縮されており、まさに「タイムループ映画の入門編」にも「新鮮な良作を探している人」にもおすすめだ。
映画『パーム・スプリングス(2021年)』の作品情報まとめ(監督・キャスト・配信情報など)
- 監督:マックス・バーバコウ
- 出演:アンディ・サムバーグ、クリスティン・ミリオティ、ピーター・ギャラガー、J・K・シモンズ、メレディス・ハーグナー
- 公開年:2021年
- ジャンル:ロマンス、コメディ、SF、ファンタジー